箕島高校 尾藤公監督 2 ~星稜との死闘と涙のミーティング~

甲子園通算35勝という輝かしい戦績を残した尾藤監督。

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なかでも我々の脳裏から焼きついて離れないのが星稜高校(石川県)との延長18回の死闘だろう。
今回は、この星稜戦のエピソードに焦点をあててみたい。[/aside]

前回の記事「尾藤スマイル」はこちら

昭和54年、第61回夏の甲子園大会。対星稜(石川県)戦は延長18回の死闘は、いまだもって高い話題性を誇る一戦だ。

「田舎のチーム同士の、人間味あふれる試合だったからでしょうね。」と尾藤監督が振り返るように、一つひとつのプレーにドラマがあった。

試合は箕島・石井毅(元西武)と、星稜・堅田外司昭投手の、淡々と、しかし力強い投げ合いで進み、1-1の投手戦のまま延長戦へともつれ込む。

試合が動いたのは12回の攻防だ。

主将の上野山善久(二塁手)は前日に40度近い熱を出すアクシデントに見舞われ、鼻血を出しながら辛抱のプレーを続けていたものの、この回、ついにタイムリーエラーを犯してしまう。

1-2と星稜リードとなって、12回裏の箕島の攻撃も2アウトランナーなし。ここで次打者は嶋田宗彦(捕手・元阪神)だったが、入りかけた打席からベンチに戻り、尾藤監督に一言、名文句を言う。

「ホームラン、狙ってもいいですか!?」

「監督である私自身が、この時点で負けを覚悟していた。それが以心伝心、ベンチ全体が暗くなっていることに嶋田が気づき、喝を入れてくれたのです。彼の気迫に圧倒された感もありましたが、ハッっと我に返って、よーし!狙ったれ!!と言いました。恥ずかしながら、子どもに教えられました。」

そのとおり、嶋田は見事にレフトラッキーゾーンにホームランを放って試合を再び振り出しに戻す。

日が落ちて球場全体をカクテル光線が照らす中、14回に今度は箕島がサヨナラのチャンスを迎える。

ところが、サードランナーの森川康弘(中堅手)が予期せぬ隠し玉にあってチャンスは一瞬にして消えてしまうのだった。

そして16回、再び星稜が勝ち越して2-3。

12回同様、箕島の攻撃もあと一人になる。打席に入ったのは、先に隠し球にあった森川。

汚名返上とばかりに初球から思い切って振っていったバットも、一塁フェンス際へのファウルフライとなって、万事休す。

が、星稜の一塁手・加藤直樹が、なんと転んでそのボールを捕り損ねるのである。

なぜ転んだかについては、不運にも照明が目に入ったことと、足元の芝生の境目、ないしは、微妙にくぼんだ穴に足を取られたためなどと言われているが、いずれにしても捕れば試合終了となったはずのボールは無情にもグラウンドに転がり落ちた。

命拾いをした森川は、そのあとの4球目に、再びの奇跡を呼び込む左中間スタンドへの同点ホームランを放つ。

当時まだ2年生。それまで公式戦はあろか、練習試合でも1本もホームランを打ったことがなかった選手の神がかり的な一発だった。

こうして息詰まる攻防の決着は、引き分け再試合となる寸前の18回裏、箕島1死一、二塁から上野敬三(遊撃手・元巨人)が左中間ヒットを放ち、劇的なサヨナラで幕を閉じる。

試合時間3時間50分。終了のサイレンが鳴ったのは、まもなく午後8時という時刻だった。

石川県屈指の強豪校を作り上げた星稜高校 野球部 山下智茂監督

2016.01.27
※対戦した星稜・山下監督の記事はこちら

涙のミーティング

「懐かしいですね。自分が監督としてこのような試合にかかわることが出来たことに、心から感謝しています。
でも試合は押されっぱなしで、やっている時は胸が押しつぶされそうな、めちゃくちゃ苦しい思いをしました。春優勝したといっても決して力のあるチームではなかったので、連覇など一切口にせず、子どもたちも勝ちにこだわるというよりは負けて早く帰りたいと平気で言うような連中でしてね。それが終わってみれば、宝物のような試合になって・・・・。
宿舎に戻ったあとのミーティングがまた思い出です。座敷で選手が正座をして待っていて、円陣を組んだその真ん中に私が座りました。いつもの習慣で、右手から一人ひとりの顔を見回していくのですが、どの子も涙を浮かべ、ポロポロと頬を伝わせている子もいる。何かを喋らなくてはと思ったものの、最後のひとりを見終わったとき、自分も涙が止まらなくなってしまい、しばらくはお互い見つめ合いながら泣いていました。勝って流した涙です。持っている全てを出し切って戦いが終わったという満足感。こんないい試合をありがとう。同時に、この子たちと気持ちが通じたな、心が通い合ったなと、そんな充実感をも味わうことができました」

この一戦は、後に ” 神様がつくった試合 ”  ” 最高試合 ” などと形容され、今なお語り続かれている。

本当に全てを出し切った時。やりきった時。言葉などいらない。

お互いの涙で連帯感が生まれ、子どもたちは、また成長していったのである。
尾藤監督と共に。

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