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革新的な練習方法を作り上げた仙台育英高校野球部 竹田利秋・元監督

 2016/01/27 高校野球と甲子園
 

人の話を耳でなく心で聞け

仙台育英の野球部員は、音楽鑑賞に出かけたりするかと思えば、最寄り駅の清掃に出かけたりと、野球以外の経験も豊富だ。

「ウィーンのクラシック音楽などを聴きに行き、雰囲気を味わいマナーを学ぶ。そうすれば将来、彼女とデートの時に役に立つでしょ。とにかくすべてが勉強なんです。遠征にしても、いいホテルと悪いホテルの両方に泊めて差を知るようにする。バスに乗っているときにしても、いつだって勉強の題材は転がっているんです。」

多くの題材を見逃すか見逃さないか。日本という恵まれた環境の中で「気づかせる」という役目を監督はし、また日常の中でもその大切さを教える。駅の清掃はほんの一例だ。

「やりなさいと言ったのは最初の1回だけ。あとは自主性に任せているけど、強いチームの時はやります。余裕が出来るんでしょうね。駅にいってきますと自分たちから出かけますから。この意欲が人を大きくするんですよ。」

また折をみては野球に限らず生徒たちに色々は話をする。孔子や孟子の話。経済理論。ありとあらゆる事だ。当の選手たちもじっと耳を傾け、時にはノートに取ることも。

「いろいろな人の話を聞きなさい。しかも耳でなく心で聞け」という教えによって仙台育英の選手たちの人を見る目は素直だ。

「本当に思いやりとは何かということも、知ってもらいたいんです。近ごろは家庭や学校教育の中で、本当に温かさがわからなくなってきている。厳しさが愛情だと思うのに、親も子もわからない人が多くなった。耳障りのいい人ばかりを近くに置くでしょう。でもそうじゃない。異論を言ってくれる人、間違いをちゃんと正してくれる人が大事。そのためにはいろいろな人の話を聞く。若いときにはエネルギーがあるんです。怒られることは恥ずかしいことじゃない。失敗をたくさんして、人生の肥やしにしてほしい。」

余談ながら、この話の最後にプロ野球の監督という話題が出た。
”自分に共鳴してくれる人ばかり招へいしている。
まさにそうだとうなずいてしまった。

親も部員全員を受け入れるだけの器を作って欲しい

ところで家庭、親の話が出たが、竹田監督の父兄とのかかわりも特筆すべきものがある。
仙台育英の父兄会は数回、監督とオープンに話す機会を設けている。全体会もあればブロック別に分けている場合もある。最初は母親が出てくるが、そのうち父親も出てきて話を聞きたいといってくるそうだ。

「まず父兄に話すことは、皆さん方のお子さんはひとりですが、野球部に入れたら全部員が自分の子どもだと思って下さい。100人いたら100人。そしてみんなが幸せになるように考えてほしい。そこにうちの子もいたわと、そういう感覚でいて欲しいと言っています。つまり親も100人受け入れるだけの器を作ってくださいということです。」

生徒に対してと同様にいろいろ話をしながら、また父兄の話にも耳を傾ける監督。
しかしながら、私的な席では一切の付き合いを断っている。父兄会からのバックアップは一切なし。このけじめははっきりしている。

スキを作ってはいけないのだと、あくまで一教師の姿勢を崩さない。だから本当に長い年月、竹田監督はただひとりの手でチームを作り上げられてきたのである。

こうした歴史の中で、平成5年、初めて教え子をコーチに招いた。
「確かに体力的にも衰えを感じます」と頭をかいて言った竹田監督のかたらわで、東北高校の投打の中心となり第58回選手権(昭和51年)ベスト8入りを果たした佐々木淳コーチ(のちの仙台育英監督「順一郎」に改名)が陣頭指揮を執っている。

竹田監督35歳の時の選手であり、当時の厳しさをそれは良く知る。
「だから今は別人のようです」と佐々木氏は苦笑する。

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ライター紹介 ライター一覧

藤井利香

藤井利香

東京都生まれ。日本大学卒。
高校時代は(弱小)ソフトボール部の主将・投手・4番として活躍。大学では、体育会ラグビー部の紅一点マネージャー。関東大学リーグ戦グループ・学生連盟の役員としても活動。
卒業後は商社に勤務するも、スポーツとのかかわりが捨てがたく、ラグビー月刊誌の編集に転職。5年の勤務のあと、フリーライターとして独立。高校野球を皮切りに、プロ野球、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ取材を長く行う。現在は、スポーツのほかに人物インタビューを得意とし、また以前から興味のあった福祉関係の取材等も行っている。

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