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正味2時間の練習メニューで強いチームへ 日大鶴ヶ丘高校

 2016/07/19 高校野球と甲子園
 

東京の私立だって必ずしも環境に恵まれているわけではない。日大鶴ケ丘高校もグラウンド使用に制限がある学校の一つだ。
強豪ひしめく西東京で甲子園に3度出場したのは制約の中での時間を効率的に使った練習方法を繰り返した結果であった。

正味2時間の練習時間。ダラダラしている時間は無い。

日ごろから、「練習はウソをつかない」と言われる。当たり前のことだが、勝つためにはある程度の練習量が必要だ。

でも、やりたくてもやれない、そんな制約つきのチームが結構ある。例えば、公立高校で定時制を持つ学校。どんなにやりたくても夕方5時くらいで活動を終了。

夏場などまだ太陽が燦々と輝いているのにもかかわらず、練習を終えなければならない。やり切った感のないまま帰宅というケースも少なくなく、それはなかなかにつらいことだ。

たとえ定時制という制約がなくても、都会の場合、近隣に騒音や照明で迷惑がかかることを配慮し、あまり遅くまでは練習できない。帝京の前田三夫監督も、「球場を囲むように民家が建ち、気配りをしていかないと応援してもらえなくなるよね」と言っていた。

そう、高校野球は日本の国民的行事ではあっても、近隣の人々の中にはアンチ野球も必ずいる。じゃあ、夜はやめて朝練習にしよう・・・と考え方を変えたつもりが、今度は「朝からうるさい!」と苦情が来てしまう。声を出さずに行っても、カキ~ンというバットの音が耳障りと言われてしまうのだ。

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東京都杉並区の清閑な住宅街に練習場がある日大鶴ケ丘は、もともと7時から朝練(自主)を行っていたが、近隣に配慮し今は7時半スタート。それまで部室でしずか~に待機し、時間になったら勢いよくグラウンドに飛び出していく。授業開始時刻までの40分1本勝負だ。

放課後の練習も18時過ぎに全体練習を終え、自主練習を経て19時には全員グラウンドを出るというのが約束事。正味2時間ちょっとと、強豪校の一角を成す存在でありながら、練習時間はかなり制約されている。
時間がない!となれば、どうするか。

当然、ダラダラやぼんやり・・・はご法度である。学校からグラウンドまで徒歩5~6分の距離を、選手たちは授業を終えると制服のままダッシュでやってくる。そして、ダッシュで着替え、一気に練習をスタートさせる。

総勢100名近い部員がきびきびと動き、声も一人ひとりよく出ている。その後の練習メニューも全員が常に動いて無駄のないよう工夫され、気を緩める時間を一切与えていないのが見事だ。

さすがと思わせる練習法はいくつもあるが、複数あるチームの決め事がなかなかにおもしろい。そのうちの1つ、ちょっとユニークなものとしては、グラウンド内を移動するときは、〝内野手はサイドステップ、外野手はバックラン〟で動くというルールだ。

練習を見ていたとき、選手たちがなんだかもじもじ、ひょこひょこ。おもしろい動きをするな~と思ったらコレだった。

次のメニューに移るときや、ベンチに戻って来るときなど。体の動きを柔軟にするといった目的もあるだろうが、ただ動くのではなく、何事も常に意識して練習につなげるという姿勢が感じられて好感が持てた。こうしたルールがあるから、仲間同士無駄口をきく暇もなさそうだ。

日大鶴ケ丘の〝野球のセオリー〟

また、これはスゴイと思う決め事が、監督がつくった〝野球のセオリー〟を徹底的に頭に入れることである。

監督の長年の指導から生み出された項目は年々増えていき、現在は110項目近く。これを選手たちは入学してから事あるごとに説明を受け、頭に叩き込む。

メンバー組は遠征時などバスの中で毎度復唱することになっており、眠りたくても眠れない! らしい。だから、少しでもウトウトするために知恵を絞って超早口で復唱するそうだが、現実には項目があまりに多すぎて、最後にたどり着かないうちに目的地に到着してしまうとか!

かつて取手二、常総学院を率いたあの木内幸男監督が、指導者の晩年、「今の高校生は野球のルールを知らない」とこぼしていたことがあった。

野球が好きならとことんルールを知って研究するはずなのに、そこまでする選手が少ないというのだ。そういった声は昨今またとくに多く聞かれ、同じ野球でもプロなど高校野球以外のことに関心が薄いといった声も聞く。技術は高いが、野球オタクが減っていることを指導者はとても残念がる。

日大鶴ケ丘は、エリート選手は皆無に近い。部活動の一環としての活動ゆえに誰でも受け入れ、ごく普通の選手たちを監督は創意工夫の練習で戦える選手に育て上げていく。

それもいわゆるスパルタ指導ではなく、怒らず叱らず、「こんなんでいいの?」と諭しながら粘り強く導いていく。ルールの勉強は、普通の選手が日大三や早実にどうやって立ち向かっていくか。

ひと泡吹かせられるチームになるための、まさに必須授業なのである。

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雨が降ると、ここぞとばかりに座学の時間。それも1時間とかそんな単純な時間ではなく、延々3~4時間続いたりして半端ない。

そこまで徹底して行って、野球というスポーツをとことん理解させたうえでグラウンドに立たせている。それはやがて、武器となる。

ちなみに、一塁、三塁コーチャーを務める選手は、常にルールブックをユニフォームのポケットに携帯している。何かあれば監督に代わってすぐに仲間に伝え、アピールする力を持たねばならないからだ。

こうした一味違う野球が何かをやってくれるチームとしての期待感を高め、大会の盛り上げに貢献していると感じている。

そして、日ごろからスマートフォンを持ち、暇さえあればその画面を見つめている現代っ子。野球の時間が終われば興味をひく題材があまりに多く、野球オタクになろうにもなれない現実がある。

でも、そんな時代に、勝ち負けだけでなく、「好きなものをもっと好きになれ」と願って指導するのも、高校野球の一つのあり方ではないかと思う。

※もっと日大鶴ヶ丘の練習方法について詳しく知りたい方はコチラをどうぞ。

藤井利香●文
榎本啓二FLickr●写真

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ライター紹介 ライター一覧

藤井利香

藤井利香

東京都生まれ。日本大学卒。
高校時代は(弱小)ソフトボール部の主将・投手・4番として活躍。大学では、体育会ラグビー部の紅一点マネージャー。関東大学リーグ戦グループ・学生連盟の役員としても活動。
卒業後は商社に勤務するも、スポーツとのかかわりが捨てがたく、ラグビー月刊誌の編集に転職。5年の勤務のあと、フリーライターとして独立。高校野球を皮切りに、プロ野球、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ取材を長く行う。現在は、スポーツのほかに人物インタビューを得意とし、また以前から興味のあった福祉関係の取材等も行っている。

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