アスリート必見!脱水症の対処法と水分補給で予防!
脱水症発症のピークは7~8月と言われていますが、気温や湿度が急上昇する6月頃から注意が必要です。
脱水症を防ぐにはこまめに水分補給が大切です。しかし、実際のスポーツ現場では、頑張りすぎてしまったり、自分のペースで水分補給ができていなかったりすることも…
自己管理はもちろん大切ですが、「まわりが気づく」ということも脱水症による事故を防ぐ重要なポイントです。
今回のテーマは、脱水症の症状や対処法・かくれ脱水のチェック方法などについてお伝えします。
スポーツに取り組む本人だけでなく、指導する立場の方や保護者の方にもご覧いただけたらと思います。
Contents
脱水症とは
健康な状態での身体の水分は、飲水や食事、発汗や排泄によってバランスがとられています。
しかし、気温・湿度などの環境の変化や、運動時の不十分な水分補給により、短期的に体水分が不足することがあります。
一般に、成人では体重の60%を水分が占めると言われていますが、体重の約5%を占める循環液(細胞外液)が不足している状態を「脱水」と言います。
人の体液
体液に含まれる主な電解質は、ナトリウム・クロール・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどで、これらは5大栄養素のミネラルに属します。
体液の種類
体液は、細胞膜を介して「細胞内液」と「細胞外液」に大別され、さらに細胞外液は「組織間液」と「血漿」に分けられます。
- 細胞内液:細胞の中にある体液(体重の約40%)
- 組織間液:細胞間や組織間にある水分で、間質液とも呼ばれる(体重の約15%)
- 血漿:血液中の赤血球・白血球・血小板を除いた液(体重の約5%)
細胞内液はエネルギー産生やタンパク質合成などの代謝反応に関わります。
細胞外液は循環血液量を維持し、栄養素・酸素を細胞へ運搬したり、老廃物や毒素を細胞外に運び出す役割を担っています。
そして、これらの体液は細胞膜の「浸透圧」を利用して交流しています。
浸透圧とは、細胞膜などの半透膜(一定の大きさ以下の分子・一定のイオンのみを透過させる膜)で隔てられた濃度の異なる液間で、濃度の低い方から高い方へ水分が移動する性質を言います。
体液は、ナトリウム濃度の高い方から低い方へ水分を移動し、一定の濃度を保っているのです。
ナメクジに塩をかけると小さくなるのも、ナメクジの体水分が塩分(ナトリウム)に引き寄せられて体外へ移動することで起こります。
脱水とは、水と電解質(特にナトリウム)の欠乏状態を指します。水分と塩分の欠乏具合によって、脱水症は大きく3つに分類されます。
高張性脱水
細胞外液の水分が減り、血液が濃くなった状態です。
激しい発汗などによる急激な水分損失や極度の水分不足によって起こる、水分欠乏型脱水です。
一次性脱水と言われ、強い口渇感が現れます。早めに水分を補給すれば、重篤に至らず脱水症状は改善されます。
低張性脱水
細胞外液のナトリウムが減り、血液が薄くなった状態です。
大量の発汗・嘔吐・下痢・出血・強力な利尿剤の投与などによる体液の損失後に、水分のみを補給することで発生します。
薄くなった体液濃度を戻すために、身体は水分を排出しようとし、悪循環を引き起こします。不適切な水分補給による二次性の脱水です。
等張性脱水
高張性脱水と低張性脱水の混合型です。
水分と塩分(ナトリウム)が同じタイミングで不足します。出血・下痢・熱傷などを原因に、細胞外液が急速に失われることで起こります。
脱水症の原因
水分と塩分の不足
水分は主に食物や飲料で補いますが、排泄・呼気・皮膚からの蒸泄によって、私たちの身体の水分は毎日失われています。
尿や便・汗や呼吸などによって1日に約2,500㎖の水分が損失されるため、体液のバランスを保つには、約2,500㎖を食事や飲料から補う必要があるのです。
健康な状態での体液量は、ほぼ一定に保たれるよう維持されます。
体液を一定に保つために重要な役割を担う臓器に腎臓があります。
腎臓は体に不必要な老廃物や過剰に摂った水分や塩分を尿として体外へ排出してくれますが、体に必要な栄養素やミネラルを再吸収する働きも持ちます。
この働きにより、体液の濃度は維持されます。
しかし、過度な体液の損失や水分不足が続けば、再吸収の機能にも限界が生じます。
それどころか、血流量が減り濃度も濃くなるため、腎臓への酸素や栄養が滞ります。
結果として、腎臓を傷つけてしまう原因にもなります。
通常生活での水分補給は水で十分ですが、激しいスポーツや肉体労働などで大量に汗をかいた場合は、水分と一緒に塩分も損失します。
激しく汗をかいた時、着ていた服に白い結晶状の物体がついていた経験はありませんか?
その正体は汗に含まれて出てきた塩です。
このような場合は、二次性脱水を引き起こさないためにも、水分と塩分の適切な摂取が必要となります。
カリウムが不足
体液が損失するということは、水分と一緒に様々な電解質が身体から失われているということです。
カリウムも体液の維持に重要な電解質の1つで、細胞内液に多く存在しています。
カリウムが不足すると、細胞内が脱水状態となり、代謝活動や神経伝達に影響を与えます。
カリウムは筋肉の興奮伝達にも関わるため、不足すると足がつったり、筋肉痙攣を引き起こしたりします。
脱水症が起こりやすい時
スポーツ時
屋外スポーツで起こりやすいイメージがありますが、屋内スポーツでも起こる恐れがあります。
気温がそれほど高くなくとも、湿度が高いと汗が蒸発できず、身体に熱がこもってしまいます。
ラグビーや剣道などの通気性に乏しい衣服を着用するスポーツでも起こりやすくなります。
日常生活
日常生活の中にも脱水症のリスクはあります。生活の中で、特に水分を失いやすいシーンは、睡眠時と入浴時です。
ヒトは寝ている間に約500ml(8時間/約29℃)、入浴時には約400㎖(7~10分/約43℃)もの汗をかきます。
また、飲酒後も脱水症のリスクは高くなります。
アルコールによる利尿作用により、お酒を飲んだ以上に、水分が尿として失われます。
また、アセトアルデヒドという二日酔いの原因となるアルコール代謝物を分解するためにも水が必要になります。
起床時の二日酔いがひどい場合や、強い口渇感は脱水のサインです。
夏に多い
梅雨明けなどの気温や室温が急上昇する季節は要注意です。
レジャーなどで出かける機会も多くなる季節ですが、夏の渋滞時の車内は脱水を起こしやすい危険な環境でもあります。
窓からの輻射熱によって体水分が汗として失われますが、エアコンによってすぐ乾燥するために、脱水のサインに気が付かない「かくれ脱水」に陥ることも…。
実は冬も注意
冬は乾燥しやすい季節です。身体の免疫にかかわる鼻腔や口腔の粘膜が乾燥することで、様々な感染症にかかりやすくなります。
嘔吐や下痢を起こしやすいウイルス性の風邪や胃腸炎などで、脱水症のリスクは高くなります。
脱水症の代表的な症状と対処法
めまい・頭痛
脱水による循環血液量の低下によって、脳に十分な酸素が行き届かなくなり、めまいが生じます。
脳が酸欠状態の危機に陥ると、脳に血液が届きやすくなるように脳血管が拡張します。
脳血管の拡張により周りの神経が圧迫されて、痛みとなって現れます。
・涼しい場所で首元や脇の下を冷やし、経口補水液を摂取させます。(経口補水液については後ほど詳しく解説します)
・呼びかけに応えない・ふらつきや痙攣がある・握手ができないなどの場合は緊急性が高いため、救急車を呼ぶなど迅速な対応をとりましょう。
下痢・吐き気
脱水による循環血液量の低下によって、臓器に十分な酸素が行き届かなくなります。
すると、臓器の機能が低下するため、胃腸の働きも正常ではなくなります。
消化管の活動を司る自律神経にも乱れが生じるため、下痢や嘔吐を引き起こします。
更なる体液の損失により、脱水症を悪化させます。
しびれ
脱水は水分だけでなく電解質も失われます。
カリウムイオンやカルシウムイオンの不足によって、神経系や筋肉の機能に悪影響を及ぼし、脚のつり・しびれ・脱力などの症状が現れます。
・ミネラルの豊富な麦茶、水+梅干しなどを摂取しても良いでしょう。
・脱力感が強く、意識がはっきりしない場合は、速やかに救急車を呼びましょう。
発熱
脱水症で体水分が不足すると汗をかきにくくなります。
すると、体内に熱がこもり、体温が上昇します。
けいれん(ひきつけ)
体重の10%以上の水分が失われると、けいれんを起こすリスクが高まります。
熱中症による熱けいれんも脱水症によるものです。水分と電解質の急激な損失によって、筋に痛みやけいれんが起こります。
・経口補水液やスポーツドリンクなど、塩分を含む飲料を摂取させます。
・けいれんしている筋肉のストレッチをして、回復を促しましょう。
・意識障害を伴う重篤な状態では、ただちに救急車を呼びましょう。
脱水症を防ぐための水分補給のポイント
飲料水からの目安量は1日あたり1ℓ~1.5ℓ
ヒトは1日約2,500㎖の水分を失うと言われています。
体液のバランスを保つには、食物や飲料から水分を補う必要があります。
年齢によって個人差はありますが、食事から補給できる水分が約1,000㎖、体内で生じる水分(代謝水)が約300㎖程度と言われるため、飲料水としての目安量は1,000~1,500㎖になります。
もちろん、運動量が増えると体液の損失量も増えるため、スポーツを行う場合ではもっと多くの水分が必要になります。
運動30分前の水分補給が脱水症予防に効果的
体水分の増減は、運動パフォーマンスに深く関わります。
体水分量が2%低下すると、運動能力や体温調節の低下・食欲の減退などが起こると言われています。スポーツでの脱水症を防ぐには、運動前の水分摂取が推奨されています。
運動の約30分前に250~500㎖の冷たい水を摂取すると、運動中の脱水を遅らせ、発汗による体温調節能力を向上させると言われています。
運動中の水分摂取量の目安
運動による体液の損失には個人差があります。
そのため、個人に適した水分量を測るには、運動前後の体重測定によって発汗量を予測し、水分摂取量を設定することができます。
運動中の発汗量は、以下の計算式で求めることができます。
1時間あたりの発汗量=(運動前の体重-運動後の体重+飲水量)÷運動時間(時間)
体重60㎏の人が1.5時間のサッカー練習をし、練習中に500㎖の水分補給をしたとします。練習後の体重が59㎏だった場合、発汗量は以下のように求めます。
1時間当たりの発汗量=(60㎏-59㎏+0.5ℓ)÷1.5時間=1ℓ
1時間あたりの発汗量は約1000㎖となり、その損失分が水分摂取量の目安になります。
日頃から運動前後の体重を測る習慣を身につけると良いでしょう。
おおよその目安は、1時間当たり500~1,000㎖です。
気温・運動強度が高く、身体が大きい人ほど、水分摂取量は多くなります。
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水分補給のタイミング
運動中の水分補給はこまめに摂ることが大切です。
一度にたくさん飲むと胃に水が溜まってしまい、競技に影響を及ぼしかねません。
競技者自身が喉の渇きに応じて自由に適切な水分補給ができることが理想ですが、団体スポーツなどにおいて競技者本人が自分のペースで水分管理を行うのはなかなか難しいでしょう。
発汗量に応じた水分補給のタイミングと量の目安を以下の表にまとめました。
1時間あたり1,000㎖以下の発汗量では15分ごと、1時間あたり1,500㎖以上の発汗量では10分ごとの水分補給がおすすめです。
望ましい水温と組成
運動中の自発的な水分補給を促すためにも、口当たりがよく飲みやすいものがおすすめです。
失われた電解質の補給・エネルギー補給・吸収効率などの面から、日本体育協会では、運動中には以下のような飲料が適しているとされています。
スポーツ飲料を飲み分ける
スポーツドリンクは組成によって、アイソトニック飲料とハイポトニック飲料に分類できます。
この2つは糖分の濃度によって見分けることができます。
アイソトニック飲料
アイソトニックは「等張液」という意味です。
安静時の体液と同じ濃度の飲料ということになります。
体液と同じ浸透圧なので安静時での吸収スピードが速く、糖質が全体の4~6%と多く含まれるため、エネルギー補給にも適しています。
しかし、糖質が多く含まれる分、胃の滞留時間も長くなるため飲みすぎると運動パフォーマンスに影響がでることも。
アイソトニック飲料は、運動前のエネルギー補給や運動後の疲労回復に適しています。
運動前に飲む場合は、直前では消化が間に合わないため、1時間ほど前に補給すると良いでしょう。
ハイポトニック飲料
ハイポトニックは「低張液」を意味し、糖分濃度が2~3%と低めで、安静時の体液よりも浸透圧が低い飲料になります。
たくさん汗をかくような状況では、体液が安静時よりも薄くなることが想定されます。
たくさん汗をかいた時は、エネルギーよりも水分・電解質の補給を優先したハイポトニック飲料が適しています。
ハイポトニック飲料は含まれる糖質量が低いことから、減量時の飲料としても適しています。
脱水時の水分補給に適しているとされる経口補水液も、ハイポトニック飲料に分類できます。
脱水時は体液が薄まった状態なので、速やかに水分と電解質を補給する必要があります。
経口補水液はスポーツドリンクよりも塩分(ナトリウム)量が多いため、しょっぱく感じるのが特徴です。
スーパーH2O(アサヒ) イオンウォーター(大塚製薬)
以下に、アイソトニック飲料・ハイポトニック飲料・経口補水液の組成と特徴をまとめました。
注意!子供と高齢者は脱水症になりやすい
高齢者が脱水症になりやすい理由
なぜお年よりは脱水症なりやすいのでしょうか。理由は5つです。
①感覚の衰え
喉の渇きに気づくことができず、自ら水分を補給しようとする意識が低くなります。
②食事量の低下
食欲の低下・嚥下機能の低下により、食物から摂取する水分量が低くなります。
③飲水量の低下
トイレに行く回数を減らすため、水分摂取を控える傾向があります。
また、嚥下機能が低下すると液状での水分摂取が難しくなります。
④薬剤の影響
利尿作用のある薬を内服していると尿量が増し、体液の損失量が増えます。
⑤筋肉量の低下
身体の中で最も多く体液を含むのは筋細胞です。
活動量の低下から筋肉量が減ることで、細胞内の体液が減ります。
高齢者の脱水症の治療法
口からの飲水が可能であれば、経口補水液を摂取させます。
衰弱が激しい場合は、医療機関で点滴などの処置を行います。重篤な場合は入院となるケースもあります。
子どもが脱水症になりやすい理由
次は子どもです。親がしっかりチェックしてあげましょう。
①体重に占める水分量が多い
成人の体液の割合が体重の約60%に対し、子どもでは体重の70~80%を占めます。
腎臓の機能が発達していないため、大人のように水分や電解質を効率よく再吸収できないため、体液を保持するためにはたくさんの水分摂取が必要です。
②細胞の周りの水分が多い
体液は細胞内液と細胞外液に分けられますが、子どもでは細胞外液が多いという特徴があります。
通常、脱水は細胞外液から始まるため、子どもでは脱水のリスクが高くなります。
③感染症で熱・嘔吐・下痢になってしまう
大人に比べて免疫力が低い小児では、感染症のリスクが高まります。
熱や嘔吐・下痢による体液の損失により、脱水症を引き起こしやすくなります。
子どもの脱水症の治療法
乳幼児の場合、母乳栄養では母乳を、人工栄養の場合では濃度と量を1/2~2/3にして様子を見ながら与えます。
経口補水液の利用もおすすめです。乳児でも飲みやすいアクアライト(和光堂)などを活用すると良いでしょう。
1歳以上の小児では、野菜スープ・水で薄めた果汁・アイスキャンディーなどを1口ずつ与えましょう。ジュースやコーラは消化管に刺激を与えるため、適していません。
どの飲料も受け付けない・ぐったりしているなど症状が重い場合は、すぐに医療機関を頼りましょう。
かくれ脱水に注意
脱水症は、脱水が進行するほど症状が重くなります。
しかし、軽度の脱水は「気が付かない」まま放置されてしまうことも多いののです。脱水症に本人や周囲が気付かず、適切に対処されていない状態を「かくれ脱水」と言います。
かくれ脱水を早期に発見することが、脱水症による深刻な症状を予防するベストな方法です。
かくれ脱水のチェック方法
手が冷たい
血流が不足すると血行不良を招きます。気温は暖かいのに手足が冷たい場合は、脱水が原因かもしれません。
口が臭い
唾液が不足すると、口腔内の細菌が繁殖し、悪臭を放つ原因になります。粘膜の渇きは脱水のサインなので、いつもと違う口臭を感じたら脱水を疑いましょう。
舌が乾いている
健康な人の舌の色は赤く、表面は滑らかな状態です。表面に光沢がなく、赤黒く乾いていると要注意です。
便秘がヒドい
便秘は水分不足のサインです。水分が不足すると便として排出される水分が少なくなります。水分を含まない便は硬くなり、腸管内の移動が滞ります。
皮膚をつまんで3秒以上元に戻らない
皮膚の水分が不足すると肌の弾力が減り、元の状態に戻りにくくなります。手の甲の皮膚をつまみ、放した後3秒以内に戻らなければ、脱水が疑われます。
親指の爪の先を押して赤みが戻るのに3秒以上かかる
毛細血管の血流状態を確認することで、細胞外液量の指標になります。
爪を押すと白くなりますが、血流状態が良いと放したときにすぐに赤い状態に戻ります。
この戻り時間が3秒以上かかると、脱水の疑いがあります。
まとめ
スポーツに熱中する人ほど気をつけたい脱水症。
水分補給の大切さはわかっていても、競技者が必ずしも自分のタイミングで自由に飲めるとも限りません。競技者・指導者の双方が、水分補給の大切さを理解し、環境を整えることが大切です。
まずは、練習30分前の水分補給(250㎖~500㎖)から始め、水分補給への意識を高めてはいかがでしょうか?
適切な水分補給は、脱水予防だけでなく運動パフォーマンス向上の効果も期待できます。今一度、自分やチームの水分の摂り方を見直してみてはいかがでしょうか?
西坂真秀美●文(管理栄養士)
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