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リオオリンピック・惨敗から始まるサクラセブンズの文化

 2016/09/01 ラグビー
 

2016年夏・女子ラグビーの新たな歴史が始まった。
リオデジャネイロオリンピックで正式種目となった女子7人制ラグビー。代表入りしたメンバーたちは『サクラセブンズ』と呼ばれた。メンバーはラグビー歴の長い選手、また別の競技から転向した選手、さらにはママさんラガーマンがいるなど実に多彩な顔ぶれだ。五輪ではケニアから歴史の1ページを飾る1勝をあげた。結局オリンピックではこの1勝にとどまり10位。結果はもちろん満足できるものではないかも知れない。しかしながらサクラセブンズの選手たちは次世代への伝道師となり競技人口の裾野を広げ、強いチームへの礎になるに違いない。

実力差だけでなく、ミスも目立ったオリンピック

リオデジャネイロオリンピックから新競技種目に加わった7人制ラグビー。男子日本代表は、予選リーグで金メダル候補の一つだったニュージーランドから大金星を挙げ4位とメダル獲得まであと一歩のところまで迫った。
一方、女子日本代表(愛称:サクラセブンズ)は予選リーグで3連敗。9~12位決定予備戦でケニアから初勝利を奪ったが、9位10位決定戦で開催国ブラジルに敗れて10位に終わった。

目標としていたメダル獲得はおろか、世界との実力差をまざまざと見せつけられる結果に……。主将を任されていた中村知春選手は全試合終了後、「私たちはまだまだ弱かった」と語ったのが印象深かった。

確かに格上のカナダ、イギリスには、何もできないまま完封負け。予選リーグ、順位決定戦で2度対戦したブラジルにはハイパントで背後のスペースを簡単につかれてしまうなど戦略にやられてしまった印象がある。

相手の実力が上回っていたのは確かだがサクラセブンズはいつもより、連携やパス、ハンドリングにミスが多く目立っていた。
7分ハーフで行われる7人制ラグビーは、ワンプレーで試合の流れがガラリと変わってしまう。そのため強豪チームでもミスが多いと格下相手に苦戦することもあり、番狂わせが起きやすいスポーツとも言われている。

だからこそ、合計14分という短い時間の中で、体力面でも精神面でも持てる力を思う存分に発揮しなければいけないのだ。
サクラセブンズは、オリンピック本番で力を発揮するために、年間300日にも及ぶも猛練習をこなしてきた。しかし、その成果を発揮することはできなかった。
応援してくれたファンの期待に答えられなかった選手たち。彼女たちの悔しさ、歯がゆさなどは、計り知れないほど大きい物となった。

他競技からの転向を受け入れチームを強化

ラグビー協会はオリンピックの新競技種目に決定して以降、ラグビー経験者以外からも優秀な人材を集めるため、トライアウトを実施し代表強化を図ってきた。
男子に比べ競技人口が少ない女子が、門戸を広げて選手の実力を上げることは決して間違ったことではない。
女子ラグビー部がある中学校や高校はわずかで、他のスポーツに比べて裾野が広いとはいえないのだから。

実際、リオデジャネイロオリンピック最終登録メンバー13人中、5人が他競技からの転向組だ。オリンピックで、歴史的初トライを決めた桑井亜乃選手は、大学まで投擲種目の選手として活躍していた。

ママさんラガーとしてサクラセブンズの精神的主柱としてメンバーから強い信頼を得ていた兼松由香選手は、「他競技から転向してきた選手は、ラグビーをメインでやってきた私たちにはない考え方や動きをすることがある。だから勉強になることも多いです」と語った。
選手がこのような言葉を残すのだから、転向組がサクラセブンズに大きな影響を与えているのは明らかだ。

惨敗は歴史のたった1ページにすぎない

オリンピック出場決定後、サクラセブンズの4選手にインタビューする機会があった。そこで全員が口にしていたのが、女子ラグビー界の発展だ。
「私たちには、女子のラグビー、サクラセブンズの文化の根幹部分を作る役割がある」(中村選手)
「オリンピック後は、サクラセブンズで学んだことを活かし、女子ラグビーの普及、強化、教育に携わりたい」(兼松選手)
「女子7人制ラグビーを多くの人に知ってもらい、競技人口、クラブチームなどが増えてほしい。そのためには結果を出していきたい」(桑井選手)
「ラグビー、タグラグビーなどが学校教員のひとつとして全国に広まるように自分ができることをやっていきたい」(山口真理恵選手)
これに加えて、4人はラグビーが自分の人生を変え、夢を追うことのすばらしさを知ることができたとも話してくれた。
自分を変えてくれたスポーツだからこそ、もっとたくさんの人にラグビーのすばらしさを伝えたい。だからこそオリンピックではメダル獲得という結果を残したかった……。

結果は出なかったが、経験としては得るものはとても多かったはずだ。
「この経験は大きなものがあった」と中村選手が話したように、リオデジャネイロオリンピックの4試合は決して無駄なものではない。
女子ラグビー界が発展するために、必要だったと思えば新たな方向性が見えてくるはずだ。

1984年に放送されたドラマ『スクール☆ウォーズ』をご存じの人も多いだろう。
京都市にある伏見工業高校(現・京都工学院高校)ラグビー部で監督を務めた元日本代表の山口良治さんをモデルモデルにした物語で、最高視聴率21.8%を獲得した大ヒットスポ根ドラマとして知られている。
この物語で主人公が監督を務める高校は、強豪校に0対109という大惨敗を喫した。フィクションのドラマだから劇的な描き方をしているだろうが、この試合から監督、選手の気持ちが変わっていった。
人生、山あり谷あり。歴史を作る過程にはいろんな出来事が起きる。リオでの惨敗もそのひとつという考えても間違いではないかもしれない。

【了】

松野友克●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松野友克

松野友克

1976年、福島県南相馬市生まれ。
小学生のときは少年野球、中学・高校ではバレーボールに熱中していた。高校時代にスポーツ雑誌の仕事に携わりたいと上京を決意。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、複数の編集プロダクションに勤務したのちフリーランスのライター・編集者として独立した。
多ジャンルの雑誌、ムック本・書籍を制作する中でプロ野球、女子7人制など多くのスポーツ取材を行う。趣味はスポーツ観戦、ゴルフ。

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