赤とんぼが飛んだ日 都立小山台高校・野球班の2019年・夏
都立小山台高校の2019年・夏
ちょっとエッセイ的な高校野球観戦記になってしまうことをお許しいただきたい。
7月16日、東東京大会の3回戦、都立小山台VS東海大高輪台の試合を観た。
その前日、じつは不思議な光景を目にした。自宅2Fの部屋の窓を大きく開けていたとき、外にふと目をやるとトンボが飛んでいる。
あ、トンボ!
別に不思議でもなんでもない話かもしれないが、その姿は小山台の選手で、2006年にシンドラー社のエレベーター事故で亡くなったヒロスケ君だと私は勝手に考えた。
窓から大きく手を差し伸べてみる。こっちに来るはずないか・・・。
そう、指に止まってくれることはなかったが、目の前に現れたトンボは1匹ではなかった。
あれ、お嫁さんが一緒ねと、2匹目を確認。その後、あっという間に5匹、6匹、7匹と集団で賑やかに飛んでいるではないか。
自宅は隣がマンションで、緑も水も少ない場所。空が大きく広いとは言えない場所で、楽しそうに旋回している姿にしばし目を奪われた。
この夏、小山台は春ベスト4と活躍し、東東京で初めて第一シードを獲得した。やぐらの四隅、左上を堂々陣取っている。
その姿を祝うように、東京大会の開会式ではトンボが小山台の保護者席に現れ、関係者を驚かせたという。
それを聞いて、改めてトンボを身近に感じていた矢先の出来事だった。
1回戦は東海大高輪台
初戦を迎えた小山台を迎え撃つのは東海大高輪台。
東海大の付属校で唯一甲子園の土を踏んでいない学校で、甲子園出場はまさに悲願。
縦縞のユニフォームは付属校それぞれ微妙にデザインが異なるのだが、強く、たくましく見えるのはどこも同じ。
「T・O・K・A・I」の応援歌が流れると、それだけで強力打線が火を噴く感じでスタンド全体が盛り上がる。この応援、昔から変わらず大好きだ。
2014年のセンバツ大会に小山台が21世紀枠で甲子園出場を果たしたとき、前年秋の都大会で小山台の進撃を準々決勝で食い止めたのが東海大高輪台だった。
勝ったのに、でも甲子園に行ったのは小山台。何とも皮肉な結末だった。
そんな因縁もある両者の戦いは実力的には小山台がやや有利と思われたが、東海大高輪台はこの日が大会3試合目。
勢いに乗るチームがシード校を破るケースは多々あり、小山台にとって例年以上に嫌な相手だったはずである。
試合内容については、ネットでリアルタイムの速報も出されたほどなので簡単に。
結果は8回コールドの10-2で小山台の勝利。終始小山台ペースで進み、相手に主導権を握らせなかった。さすがのひと言に尽きる。
小山台の打線は上位・中軸が稼働。チャンスに連打が出たのが大きい。
大きな当たりは1つもないが、きれいに合わせて外野へ運ぶ。小雨が一時強くなるほどの悪いコンディションだったが、粘ってしっかり四球を選び、絶妙なセーフティーバントで相手をかく乱するシーンも。
守りも確実で、三塁手が難しい打球を捕球後自ら三塁ベースを踏んでさらに一塁へ送球し、ダブルプレーを取るなど攻守でリズムがあった。
勝敗のカギを握るエースも小柄な体を躍動させ、前半では要所で打者を三振に打ち取る。緩急つけ、打たせて取る落ち着いたピッチングが光った。
東海大高輪台は相手投手をとらえそうでとらえられないジレンマの中、簡単にフライを打ち上げるシーンも多く打線がつながらない。
ただ7回、簡単に2人がアウトになり、あと1つでコールド負けという寸前で本領を発揮。2四球と2連打で2得点し次の回につなげ意地を見せた。
しかし、この日絶好調の小山台上位打線が再び火を噴き中軸へとつなげ、3得点。最終回に入ることなく決着がついた。
この日、連休中の試合が悪天候で平日へとスライドし、スタンドはガラガラ。
両校の学生は登校日だったようで、応援は限られた生徒だけだった。
東海大高輪台の吹奏楽部といえば全国クラス。
小山台の吹奏楽部も実力があり、双方の賑やかな応援とともに、晴天のもとで試合をやらせてあげたかったと思わずにはいられなかった。
この日の東京は7月半ばというのに長袖2枚を重ねても大丈夫なほどうすら寒く、本当に驚くばかり。
暑さ対策プラス、悪天候に対する事前準備もものをいう大会になっている。
そんなスタンドで「T・O・K・A・I」の応援歌を聞き、小山台の7回の攻撃では「あまちゃん」が鳴り響いた。
甲子園で聴いた「あまちゃん」の大応援はそりゃあすごかったけれど、今後どんな形で演奏されるのかも楽しみの一つ。
昨夏は決勝戦に進出して準優勝。試合後半に入らないと聞けないような気がするが、もっともっと聞きたいと思うファンも少なくないことだろう。
ところで、小山台は勝利まであとアウト1つというとき、マウンドに内野手が必ず集まる。
焦らず、いつも通り。言葉を交わし、円になった野手がぴょこんと軽く飛んで各ポジションへと散っていく。
この日も東海大高輪台の7回の攻撃、2アウトのところで見られたのだが、実際そうは問屋が卸さなかった。
前述のとおり、得点されてコールドならずに8回へ。
追加点のあと迎えたその裏の守りで、やはり同じようにあとアウト1つとなったのだが、はてどうするだろうと見ていたらそのまま野手が集まることなく試合を進めた。
「なるほど・・・」と思ったところで最後の打者を外野フライに打ち取り、試合終了。
簡単に試合は終わらない、むしろあと1つを意識せず、目の前のことに集中しよう。
常に起きている事実をきちんと受け止め、対処していく。そんなチームの信条を垣間見た気がした。
それは余談としても、記者席でなくこの日はスタンドで観戦。
そのとき、ふと思った。スタンドに上がってしまうと選手の表情まではまったくわからないのだが、小山台の選手の動きは毎年同じ。雰囲気も似ていて、淡々と、でもキビキビと。
とくに都立高校の場合、毎年の戦力にばらつきがあり雰囲気が変わるものだが、小山台は変わらない印象だ。
今年のチームは「弱い、弱い」と言われ、前年度準優勝のプレッシャーもありながら、よくぞここまで。先輩たちに敬意を表し、それを礎に自分たちのチームを育てていく。
それが自然に、当たり前にできるチームというのはなかなかないと感じている。
その日、帰宅して2Fの窓を開けた。トンボ・・・、いるはずないか。いや、飛んできた。
このときは2匹。ちょっと信じられなかったが、勢いよく旋回し数分ののち消えていった。
聞けばこの日、試合の行われた神宮球場にもトンボは姿を現したという。何かあるんだろうなと、そう思わずにはいられなかった。
国士館が、そして二松学舎大付までもが初戦敗退と、波乱の東京大会。
両校とも確かに相手は難敵だったが、いかに勝つことが大変かを物語る大会中盤である。
藤井利香●文
※小山台高校の野球をもっと詳しく読むならコチラから。
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