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箕島高校 尾藤公監督 6 ~他校の監督にも熱血指導~

 2016/03/16 高校野球と甲子園
 

我々の脳裏に焼き付いて離れない尾藤スマイル。
野球部の練習方法にも変化が現れはじめ、鬼の尾藤からホトケの尾藤になっていった。
甲子園で35勝をあげた名将は、監督勇退後も
「高校野球に恩返しを」を思いに秘め
次世代の指導者に対してアドバイスを送る日々が始まった。

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監督退任後は日本中で講演会を

すべてをさらけ出し選手とともに歩んだ29年間の監督生活にピリオドを打った尾藤監督。

監督を勇退後は日本高校野球連盟の技術振興委員を務め、全国津々浦々に出向いて
アドバイスを送った。地域ごとの指導者講習会では、壇上に上がって講演をすることも多かった。
もっとも多いテーマが 〝今、指導者に求められるもの〟である。
時が流れ、選手の気質も変わり、その中でどんな指導がベストなのかを
問うものだ。

実は尾藤監督の本音としては、「俺が堂々、言える立場やないんやけどな」だった。
頭をかきかき、正直な気持ちを口にして苦笑いする。

それもそのはず。
監督時代は選手と取っ組み合いをするかのごとく体当たりの指導をし、時にげんこつも飛んでいた。
これは尾藤監督に限ったことではなく、当時の指導はみなこんな調子。
うだうだ、ネチネチ叱り続けるより、その1発でいいか悪いかをわからせる。
むしろその方があとくされがなかった。
とくに尾藤監督は、翌日になったら忘れて笑っているようなお人柄。
そんな監督と対峙しながら、
選手たちは技術とともに、心も鍛えられていったのではないだろうか。

しかし、今はかつてとは違う。
経験を通して自分自身が言えること。
それは、いつの時も時代の流れに敏感になり、
社会の変化や人々の心の変化にきちんと対応していくことだという。

「考え方の柔軟性がとても大切です。言い方を変えれば、質問をどんどんしてきて
何かを求めようとする人は柔軟性がとても高いと感じるが、反対にいつまでも同じ物差ししか
持たない人は視野の狭い考え方しかできない。そのうち、きっと世の中から置いていかれてしまうと思う。
もし今のご時世をやりにくいと感じているのであれば、それは何より自分が時代に取り残されつつある証拠。
危機感をもって対応するべきでしょう」

「時代に融合しろと言っているのではありません。今の子どもたちに、または親たちに
わかりやすいように説明できる指導者にならないと。監督だからと
上からどんと言い放つやり方には賛成できません。もちろん、指導の柱は変わらなくていいんです。
ただ、今年はこんな子どもが入ってきた。次はこんな子どもがと、それぞれを認める。
そのためには、子どもを見抜く力がとても必要です。10言って9わかる子。3つしかわからない子。また1だけを言えばその1だけをきちんと理解する子どももいる。
個々の野球の能力を把握しながら、同時にそれだけでなく人間としての能力も見抜いてやる。
子どもに合わす、というのとはちょっと違う。一人ひとりの子どもに目線を合わせる気持ちが大切だと思う」

野球の技術と同様、指導者自身も進歩が不可欠

かつては愛のムチであっても、今は手をあげられただけで傷つく子どもが多い。
人と相対することをせず、すっと避けてしまう。そんな傾向にあることを尾藤監督も強く認識している。

「だから、わしの言うことをあいつは聞かんとか、気が弱いから跳ね返ってくるものが少ないなどと片付けてしまわないで、一歩踏み込んでなぜなんだと考える。
すると、自分にも責任があることがわかってきます。
わかってきたら、姿勢が謙虚になる。もっと勉強せねばと思う。
そういうことをもっとも的確に教えてくれるのが、目の前にいる子どもたちなんです」

子どもを惹きつけるための努力をしてほしい。
野球の技術が日々進歩しているように自分自身も磨き続けていくこと。
子どもが親の背中を見て育つように、努力する姿をありのまま見せてあげるだけでいい。

やがてそれが、選手の監督に対する尊敬心につながっていく。

「やらされていることには限界があります。でも、子どもが自分からやろうとしたことは限界なくやれる。
人間的魅力にあふれた指導者に出会ったとき、子どもたちはつらく厳しい練習もいとわずにやれるようになるのです。
もがき、苦しみながら勉強し続ける指導者はすぐに認められなくても、いつか必ず子どもたちに認められます。
そんな指導者が増えてきて欲しいですね」

ただ、毎日時間を共有している指導者にも、わからないことがある。
離れている親ならなおさら、わからないことがある。
何でだと大人はすぐに騒ぐけれど、あえてそこで一呼吸。
「子どもには、子どもなりの思いがちゃんとある。
我々大人と子どもとの間にあるもの。それを理解し、大切にする気持ちを持ってほしい」

尾藤監督はかつて、監督になる前は銀行マンだった。
刑事になりたいと思い、試験問題を読みあさって時期もあるという。
「でも、やっぱり野球が一番。いい人生です。
これだと思うものに出会って、子どもと同じ気持ちで過ごしてこれた。
すべては高校野球と周囲の人々のおかげです」

 
 

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ライター紹介 ライター一覧

藤井利香

藤井利香

東京都生まれ。日本大学卒。
高校時代は(弱小)ソフトボール部の主将・投手・4番として活躍。大学では、体育会ラグビー部の紅一点マネージャー。関東大学リーグ戦グループ・学生連盟の役員としても活動。
卒業後は商社に勤務するも、スポーツとのかかわりが捨てがたく、ラグビー月刊誌の編集に転職。5年の勤務のあと、フリーライターとして独立。高校野球を皮切りに、プロ野球、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ取材を長く行う。現在は、スポーツのほかに人物インタビューを得意とし、また以前から興味のあった福祉関係の取材等も行っている。

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