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阪神タイガース岩田稔選手が立ち向かう糖尿病と食事療法

 2017/03/26 プロ野球
 

プロ野球で病気と闘いながら現役生活を全うしている男がいる。
阪神タイガース・岩田稔選手である。
彼が抱えている病気の名前はⅠ型糖尿病。
今回は管理栄養士の視点から岩田投手に焦点をあてる。

Ⅰ型糖尿病って?

「糖尿病」にはさまざまな種類があり、生活習慣の乱れが主な原因で発症する糖尿病は「Ⅱ型糖尿病」といいます。

糖尿病患者全体の90%はこのⅡ型糖尿病です。ですので、糖尿病と聞くと「生活コントロールができないだらしない人」と思われてしまう事が多いのです。

しかし「Ⅰ型糖尿病」は、膵臓がインスリンという血糖を下げるホルモンを出さなくなる糖尿病です。

原因は不明で、若年者が発症する事が多い糖尿病でもあります。なので、Ⅰ型糖尿病は本人には何も落ち度はないのです。

Ⅰ型糖尿病では、1日4回以上のインスリン注射と、同じ回数ほどの血糖測定(小さな針で血を出して計ります)を行います。

それだけではなく、血糖に合わせた食事のコントロールをしなければなりません。何も問題ない人ならば、ちょっと食べ過ぎてもお腹が痛くなる程度で済みます。

Ⅰ型糖尿病の人の場合は、食べ過ぎたり、食べなかったり、偏ったりすると、血糖コントロールが上手くいかないと命に関わるのです。

血糖測定し、インスリン注射を打ち、食事のコントロールができれば、Ⅰ型糖尿病は特に問題なく生活でき、長生きできます。しかし、血糖はさまざま理由(食事、ストレス、運動など)で大きく上下します。

それに合わせて食べたり、インスリンを打ったりしなければなりません。それが365日一生続くとなれば、その大変さは計りしれません。

そんなⅠ型糖尿病を持ちながら、阪神タイガースの第一線で活躍している人こそ、岩田稔選手なのです。

岩田選手とⅠ型糖尿病

岩田選手は、高校生の時にⅠ型糖尿病を発症しました。食べても食べても痩せてしまい、学校の授業で糖尿病の症状を知って、病院に行き発覚しました。

自分がⅠ型糖尿病を知った岩田選手は野球生命が終わったと思ったそうです。プロを本気で目指していた高校生にとって、それはどれほどのショックであったでしょうか。

しかし、岩田選手には2つの幸運な出会いがありました。1つ目は、とても良い医師と出会いでした。医師は、「野球ができる」とキッパリ言ってくれたのです。

実際、アメリカ・メジャーリーグのビル・ガリクソン選手はⅠ型糖尿病で活躍した選手です。医師からガリクソン選手のことを教えてもらい、野球を続けてプロになる夢を追い続けることができたのです。

巨人でも活躍したガリクソン

血糖コントロールしながらプロを目指すことは、とても難しいことです。

どの位の血糖の時に練習を始めて、どの位の時間、どんな練習して、どの位血糖が下がるかを確かめながら練習しなければなりません。

血糖コントロールが上手くいかないと、直ぐに体調不良となって練習どころではなくなります。

医師はそれが十分判っていますので、即答で「できる」と断言してくれる医師は多くないでしょう。岩田選手の最初の幸運は野球ができると言ってくれて、支えてくれる医師との出会いでした。

岩田選手のもう一つの幸運は、野球部の監督が岩田選手を受け入れてくれたことです。岩田選手の「野球続ける」という意思を尊重し、続けさせてくれたことです。監督もⅠ型糖尿病を勉強し、岩田選手のために補食を用意するなどの協力をしてくれました。

無理な練習をしたり、血糖コントロールを間違えば、命に関わることもあるⅠ型糖尿病ですから、選手を預かる監督として岩田選手をチームに残すのはとても勇気の必要なことです。

甲子園を本気で目指すほどの高校です。岩田選手だけではなく、プロを目指している選手は他にもいます。

全てを覚悟して岩田選手を受け入れてくれたすばらしい監督に恵まれたことは、岩田選手の幸運ですね。

スポーツ選手と難病

さまざまな障害を持ちながら、スポーツを続ける人はたくさんいます。パラリンピックでは、驚くべき能力をみせてくれますね。

しかし、岩田選手のようなⅠ型糖尿病は、障害ではありません。健常者よりもさまざまなリスクを持っていますが、戦うべきフィールドは健常者と同じになるのです。

岩田選手の他にも、難病を持ちながらスポーツ選手(障害者スポーツではなく)として活躍している(していた)人もいます。

プロ野球ですと、読売ジャイアンツに所属していた田尻章吾選手はベーチェット病です。ヤクルトスワローズに所属した選手はメニエール病です。

岩田選手を同じⅠ型糖尿病のサッカー選手もいます。FC岐阜に所属していた杉山新選手です。

戦うべきフィールドが健常者と同じだと、病気によるハンデがつくわけではありません。病気だからといって、特別枠があるわけでもありません。

プロとしてスポーツするならば、難病を持ちながらも健常者と同じようにプレイできるだけではなく、難病が悪化してシーズン途中で戦線離脱する可能性があっても、この選手の能力がチームに必要だと思わせなければなりません。

そんな高いハードルを乗り越えて、岩田選手はプロとして投げ続けているのです。

岩田選手と血糖コントロール

Ⅰ型糖尿病は、普段の生活でも血糖コントロールに難儀する人がほとんどです。

人間の生活は機械ではないので、毎日同じものを食べたり、同じ動きをするわけではありません。

Ⅰ型糖尿病を患っている医療関係者(医師、看護師、管理栄養士など)もたくさんいますが、Ⅰ型糖尿病をよく知っている医療関係者ですら、血糖コントロールが上手く出来ない時もあり体調不良に陥ることもあるのです。

糖尿病の食事は、基本的に健康な人と同じ食事です。糖質、タンパク質、脂質をバランス良く摂ります。

そして、糖質を摂る直前にインスリン注射を打ちます。焼き肉を食べる時などは、肉を食べる時ではなく、〆のご飯を食べる時などに打つことになります。

暴飲暴食は、直ぐに血糖コントロール不良を招きます。

岩田選手もⅠ型糖尿病歴15年以上過ぎて、血糖コントロールのベテランになっていた慢心と、体を絞ろうと思って食事のとり方を変えたことなどで、意識がなくなり、異常行動(叫び声など)が出る「低血糖」を起こし、救急搬送されています。

チームメイトに迷惑をかけたことなど、とても反省して戒めとしています。

低血糖は、空腹感やあくびなどが出る軽い症状から始まります。多くの場合は、この状態の内に急いで糖分を摂るので大事にはなりません。

岩田選手も、学生時代は練習の合間に間食をして血糖低下の対処をしていました。しかし、喧嘩っ早いチームメイトから、間食について文句を言われたことありました。その時には、「食べなきゃ死んでしまう!」と本気で言い返しました。

血糖コントロールは、自分自身で確かめながらベストな方法を探すしかありません。

まんじゅう1個、飴1個でどの位血糖が上がるのかは人によって違うので、岩田選手は1つ1つ確かめて血糖コントロールを続けています。

現在、岩田選手は登板中、3イニングに1回、ゼリー飲料1口摂って投げています。そして、インスリンを打つ時は、人の目の前でも堂々と打ちます。

Ⅰ型糖尿病をよく知らない人から「覚醒剤ではないか!?」と思われても、話せば判ってくれる事だし、Ⅰ型糖尿病は恥ずかしい事ではないという思いがあるのです。

置かれた状況を受け入れて真っすぐに

岩田選手の座右の銘である「やらなしゃーない」は、置かれている状況を受け入れて真っすぐに進むとても素直な言葉です。

避けようがない不幸は、誰にでもあります。岩田選手のようなⅠ型糖尿病だけではなく、欲しいほど身長が伸びなかったり、交通事故にあってしまったりなどもありますね。

自分の努力などではどうしようもない状況に置かれると、人はつい僻んでしまい、「自分が悪いんじゃない、周りが(運が)悪いんだ」と捻くれて、努力を止めてしまいます。

しかし、岩田選手は捻くれたい気持ちを乗り越えて、どんな時も「やらなしゃーない」の気持ちで進んでいます。これからスポーツ選手を目指す全ての子供達も、順風満帆なプロへの道が揃っていることはないでしょう。

自分の力ではどうしようもない状況に陥った時、それを受け入れて真っすぐに夢へ進んでもらいたいと思います。

三沢奈緒子(管理栄養士)●文

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