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【ACL決勝】浦和レッズvsアル・ヒラル戦で見た『試合の環境』

 2017/11/30 サッカー
 

試合の環境

11月25日(土)、AFCチャンピオンズリーグ(ACL) 2ndレグ(第2戦)、浦和レッドダイヤモンズはサウジアラビアのアル・ヒラルを1-0で下し、ACLを10年ぶりに制覇した。

結果はもちろんのこと、内容も素晴らしい。阿部勇樹選手の涙を始め、心打たれるものも多く、嬉しく、また感動させられた。

試合内容の技術的分析は専門ではないが、アル・ヒラルのラモン・ディアス監督も評価した浦和のディフェンスは、コレクティブであり、集中力が途切れることもなかったと感じた。

そして、勝利に対する、またサッカーに対するリスペクトが溢れていた。

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勝利の女神は、個々にグッドラックも振る舞ってくれるもの。グッドラックもあり、1stレグ(第1戦)の前半、GKの西川周作選手がナイスセーブでアル・ヒラルの好機を潰してくれた。

1stレグの引き分けは、アウェーゴールもあり、浦和にとって大きなアドバンテージであった。もちろん、両試合ともに得点したラファエル・シルバの技術、強さにもアプローズ(拍手喝采)だ。

この試合の観客数は、57,727人。サポーターによるコレオグラフィーは、限定されたアル・ヒラルのサポーター席を除き、スタジアム全体を覆い、選手を鼓舞していた。なんて素晴らしいチアリング(応援)なんだ!

ピッチ(フィールド)も良かった。浦和の選手は、慣れ親しんだ高品質の芝で、その技術、スピードを駆使して最高のプレーを披露することができた。

毎年、Jリーグのシーズン後に開催される「Jリーグ・アォーズ」。優勝チームも最優秀選手も表彰されるが、ピッチもその対象だ。埼玉スタジアム2002は、昨年(2016年)も含め、Jリーグベストピッチ賞を過去4回受賞している。素晴らしい足元の環境。

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選手と向き合うレフェリーたち

サポーター、ピッチと同様、サッカーにとっての環境、しかし選手と直接に向き合う生身の環境に、レフェリーがある。

思い起こせば8月31日(木)、FIFA W杯アジア最終予選、オーストリア戦との大試合。主審は、イランのアリレザ・ファガニ(39歳)。

2016年リオ五輪サッカー決勝(ブラジル・ドイツ)を吹き、2018年W杯主審の候補でもある。このレフェリングは凄かった。一貫性ある判定、選手とのコミュニケーション、ゲームコントロール、素晴らしい試合環境の下、日本代表はロシア行きを決めた。

ACL決勝2ndレグのレフェリングを任されたのは、ラフィシャン・イルマトフ主審(40歳)。副審やゴール裏で監視をしていた追加副審も含め、審判団はウズベキスタンのセット。

ラフィシャンは、人間的にも良いやつだ。ちょっとおしゃべりかもしれない。FIFA主審に登録されたのが2003年。様々な機会で会うことがあるが、そんな感じがする。

実際、試合中、選手と随分会話する。といってベタベタ感はない。

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多くの選手たちもラフィシャンのことを分かっている。もちろん、そのレフェリングも。ACLやアジア・カップなどAFC主催試合数も数多く、なにしろW杯では2010年に5試合、2014年に4試合、計9試合と最多主審試合数だ。

よほどのことがない限り来年のロシアW杯のレフェリーとして選出されるだろう。さらに4試合ほど主審を務めれば、その記録は48チームで開催されることになる新しいW杯にでもならない限り、破られない。

試合前、チームも試合会場で前日練習をする。ピッチの状態も確認、会場の雰囲気も肌で感じることができる。同様に、審判団もだ。

審判団によっては、会場で軽く体を動かすだけのチームもあるが、ラフィシャンチームは様々な状況をシミュレーションしつつ、時間をかけてトレーニングしたと聞く。

浦和レッズVSアル・ヒラルは直接FK数24・警告3の激しい試合

試合は、激しいものだった。今年のJリーグは32節まで、浦和が得た直接FK数は平均16、警告は1試合あたり1.3。一方、この試合で浦和が得た直接FK数は24、警告は、3(アル・ヒラルは2つで退場になった警告も含め5つ)。

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試合が激しければ試合のコントールは容易でないが、ラフィシャンは、“ファウルは、ファウル”、“激しくても正当であればノーファウル”、“ファウルに悪さがあれば、警告”、一つひとつの事象を丁寧に判断し、判定を下していた。

また、常にプレーの近くに位置することによって、選手はそのプレゼンスを感じていた。そんな風に試合はコントロールされていた。

警告に限って見てみると、前半浦和2、アル・ヒラル1。後半は浦和1、アル・ヒラル4。71分に長澤和輝選手が警告されるが、これは転倒後に絡まった足の動きもあり、止むを得ないかなと感じた。

しかし、浦和が13分の宇賀神友弥選手、27分の槙野智章選手への警告でラフィシャンの判断基準を把握し、警告とならないように対応していたのに対して、アル・ヒラルは焦りもあり、後半の後半はブレーキが効かなかった。

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78分に退場を命じられたサレム・アル・ドサリ選手(サウジアラビア代表)は、77分に1つ目の警告を受け、ラフィシャンと会話している。主審の判断基準は分かっているはずなのに残念。

サッカーは11人対11人でやるものだ。アル・ドサリ選手は、ラフィシャンのカードを待つことなく、ピッチを去ろうと歩き出した。

試合後、優勝した浦和の選手もそうだが、アル・ヒラルの選手、チーム役員もレフェリングを含め、試合結果を受け入れていた。一つひとつの判定には、不満であったこともあるだろうが・・・。

レフェリングは“試合環境“。この上もないレフェリングが提供された。

きっとロシアW杯、ラフィシャンは割り当てられた試合において、この試合と同様に試合環境整備をしてくれるに違いない。

そして、浦和。UAEで開催されるFIFAクラブW杯。12月9日にアル・ジャジーラ(UAE)とオークランド・シティ(オセアニア)の勝者との試合に勝利すれば、12月13日のレアル・マドリード(ヨーロッパ)との対戦になる。ぜひとも勝利を! 

昨年の鹿島と同等以上の成果に期待したいところだ。

松崎康弘●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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