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変わっていくオフサイド

 2021/06/13 サッカー
 

FIFA総会とオフサイド

世間を賑わすとまでは至らないものの、オフサイドの規則が来年変更されると、広く報じられている。

5月21日にFIFA総会があり、FIFAのインファーティーノ会長が様々な声明のうちのひとつでオフサイド規則の改正について言及した。また、その後JFAの田嶋会長が、来年夏施行だとメディアに説明した。

インファンティーノ会長は、競技規則のことゆえIFAB(国際サッカー評議会)が決めることではあるが、FIFAとしては攻撃的なサッカーを助長したいとしている。攻撃的になり、得点が入ることによってサッカーが魅力的になるためには、規則の改正が必要と強調した。

引用(著作権法第32条):https://www.youtube.com/watch?v=eU3ldfqCVXw

 

改正の考え方は、現在の攻撃側選手がゴールラインから2人目の守備側選手より少しでも出たらオフサイドというものを、どうあれ少しでも重なっている部分があればノットオフサイドとするというもの。

 

昨シーズン、イングランドのプレミアリーグでは、1試合平均4つのオフサイドがあったが、これが2つになり、より得点が入るようになるという。

 

もっとも、守備側選手に対する攻撃側選手オフサイドとする位置が変わるだけであって、タイトなシーンの発生率は同じ。

 

しかし、攻撃側選手の前に出ててもノットなる幅がほぼ体1つ分になるので(並んでいる:0➡守備側競技者のゴールライン側の位置と攻撃側競技者の逆側の位置との差異:1)、それだけ攻撃に有利になるのは確かだろう。

概ね体1つ分、前方に出ていて“よういドン”すれば、その分早くボールに追いつくことができる。

元グランパスやアーセナルの監督だったアーセン・ベンゲルはFIFAの世界サッカー推進部門長やIFABの諮問機関であるフットボールアドバイザリーパネルメンバーでもあるが、オフサイド改革について強い意見を持っていることもあり、既に中国とアメリカで、新しい考え方によるオフサイド適用の実験を行っているとのこと。

 

どのくらい、得点が伸びるのか、興味深いところである。

オフサイドラインの変化

オフサイドの考え方は、既に19世紀の“フットボール”にはあった。

 

サッカーという競技ができたのは1863年に”Football Association(協会) が設立されたとき。

 

協会(ア)式フットボールがサッカーとなり、協会に参加しなかったメンバーは、1871年にラグビーユニオンを設立する。

1863年に袂を分けつことになった大きな理由は、ボールを手でキャッチした後、もって走ること(running-in)を是とするか否とするか。前者はラグビーを選び、後者はサッカーを選ぶ(当時のサッカー、ボールを手でフェアキャッチすることは許されていた)ことになる。

そのサッカーでさえ、当時の競技規則第6条に、「選手がボールをけった時、相手側のゴールラインに近い方に位置している味方チームの選手は全員プレー外(アウト・オブ・プレー)であり、イン・プレーになるまでボールに触れたり、ボールに触れようとするその他の選手をいかなる方法でも妨害してはならない」と規定して、ボールより前の選手はオフサイドとしている。

しかし、サッカーは、よりスピードある、攻撃的なスポーツとなることを目指し、オフサイドの規則が大きく見直された。

相手側ゴールライン側に3人の競技者いるのであれば、ボールを前方にけってもパスして良いことになったのだ。更に、1925年に3人は、ゴールキーパーを含め2人になった。これは、相当の変化である。

ここからは、自分の記憶にもあり、実体験してきたことだが、1990年に、2人目の守備側選手と攻撃側選手の位置関係が変わった。

「少しでも守備側選手の方がゴールラインに近くなければならなかったのが、攻撃側選手と守備側選手が並んでいて、少しでも前に出ていなければノットオフサイド」となった。

サッカー界は、この改正により得点の数が増えると、大騒ぎしたが、どのくらい増えたのかは定かではない。

オフサイドポジションの認識

今回の改正案が示されたときもそうだが、1990年の改正時には、線審(副審)の負担が増えるとか、副審にとって判断の厳しさが増すという話すメディアも少なからずいた。

もっとも、変更に伴う両選手の位置関係の把握という事実認識(factual perception)対応を「変える」のには、それなりに時間がかかるが、変えるだけの話。

そんなメディアは、副審を経験してから、ものを書けと言いたいところ。

 

引用(著作権法第32条):https://twitter.com/

 

それよりも、2006年に導入された、「ゴールキーパーを含め、手や腕を除く、攻撃側選手の体のどこかでも出ていたらオフになる」というのは、大変なことだった。

それまでは、体の重心であったり、体の中央部で判断しろと、結構アバウトであったが、両選手の足先の位置をも確実に認識する必要が出てきたのである。

まだ、1人なら良いが、2人、3人と重なって、スパイクの色が同色だったら、見分けは非常に困難だ。

特に、副審サイドの左奥からボールが出たとき。人間の視野は他の動物に比べ狭いものの、それでも、見えるだけ(間接視野を含めて)であれば180~200度あると言われている。

また、物を認識するための視野(周辺視野)が60%、しかし、はっきり物を把握する視野(中心視野)は5%とも。

ボールが出された瞬間の攻撃側選手の位置認識が必要であるので、自分の逆側にボールがあり、攻撃側選手もその範囲内にあるようであれば、ことは簡単だが、自分の左奥にボールと攻撃側選手を同時に中心視野に入れることは、困難。と言って、首を振れば、出た瞬間の攻撃側選手の位置認識はできなくなる。

訓練で、左目でボールを、右目で攻撃側選手を周辺視野に入れることはできるようになると思うが、それ以上のことは不可能だ。

また、フラッシュ・ラグの克服も、副審にとって、大変なことだ。2006年ごろには、オフサイドの判断ミスに、フラッシュ・ラグが原因、それを克服することが求められると研究発表が行われている。

引用(著作権法第32条):https://www.researchgate.net/

 

「オフサイドに関するミスジャッジがなぜ発生するのか? 副審のポジショニングの問題や、ボールに関係する攻撃側選手と守備側選手のみに焦点を合わせ過ぎて、例えば手前の守備側選手の位置認識が欠けてしまうなど、さまざまな理由があると思います。

その一つにフラッシュ・ラグという人間の視認処理遅延にかかる問題があるとされています。

人間が対象物を目で確認します。つまり網膜に刺激が与えられる。

そこから視神経を経由して、脳が知覚し、視認が成立します。

文献によると、その遅れは100msec(1msecは1000分の1秒)程度とのこと。

0.1秒の遅れで、100mを12秒での移動だと80cm、攻撃側選手も同じスピードで走ってくれば160cmの視認遅延。

トップスピードで2人の選手が交差すると、副審の目で見た両選手の位置と実際の位置とではそれほどの差が出てしまって、そのままだとミスだらけになってしまいます。

それでは困るので、トップの副審はオフサイドトレーニングやビデオ検証により、選手のスピードと視覚認識の差を脳の中で情報処理し、実際の位置に修正するのです。

もちろん、正しい修正がほとんどですが、プラスマイナスの過修正となった場合、ミスの原因となってしまいます。

出典:松崎康弘・ゲキサカ第51回Q&Aから。」

ちなみに、「手や腕を除く」の理由は手や腕を用いて得点できないからなのだが、GKは手や腕でボールをプレーすることができる。

ゴールラインから2人目の守備側選手(ラストセカンドディフェンダー)がGKであり、その手がゴールライン側に位置していたならば、その手と攻撃側選手の体の位置を見比べるべきかと思うが、競技規則上はそうなっていないのは不思議なことだ。

副審の仕事は、本当に大変だと思う。

というのこともあり、FIFAはトップレベルのサッカーにおける事実認識対応をAIに任せようとしている。

それが半自動オフサイド判定システムである。システム導入がない競技会(特にグラスルーツ)では相変わらず、副審の負担は大きいが、システム導入なれば、大きく軽減されることになる。

将来は、簡易なシステムでもよいので、都道府県レベルの試合でも導入可能になれば願うばかりだ。

オフサイドの位置にいるだけでは

これら、事実認識問題に加え、オフサイドには「オフサイドの位置にいるだけではオフサイドの反則とならない(競技規則第11条)」問題がある。

1980年代? 古いサッカーには、“オフサイド・トラップ”という戦術があり、相手がボールを前方にけるときに、守備側選手がラインを上げ、前線の攻撃側選手をオフサイドの位置に置かせる。線審(副審)は、攻撃側選手が前に出ていたら、旗を上げる。それでオフサイドの成立。

オフサイドの位置(ポジション)にいればオフサイドとしていた、古き良い時代だ。

その後、Active Area(積極的にプレーに参加できる地域)という概念が導入される。

オフサイドの位置にいる選手が相手選手に積極的に関わる地域にいたら、オフサイドの反則としようと言うものである。

地域が10m範囲なのか、15m範囲なのか分からないが、これは、オフサイド・トラップに大きなダメージを与えることになる。

しかし、これには指導者側が反発をした。ボールが出された時はActive Areaにいなくても、守備側選手はその攻撃側選手を意識してプレーする(干渉されている)。

また、ボールが出された後であってもオフサイドの位置にいたことによって、大きな利益を得ることができることになる。

例えば、ピッチ右奥のオフの位置に選手を立たせておく。ボールは左側のノットオフの選手に出して、その選手がドリブルして、次の瞬間にノットオフとなった右側の選手にクロスを上げる。
当然、右側の選手への守備は甘くなっているので、攻撃側は大きな利益を得ることになる。これはフェアではない。

と言うこともあり、Active Areaは、Active Play(そのときのプレー)に変化する。“Active Play”の和訳には相当苦労した。“積極的”では、おかしい。 ボールが出されたときにオフサイドかノットかの位置にいる攻撃側選手との一連のプレー、その一連のプレーが“活きている”、次の展開になっていないということで、“そのときのプレー”と和訳した。

つまり、もう次のプレーになったら、オフサイドの位置にいるかどうかは、あらためて判断しようというもの。

引用(著作権法第32条):https://www.youtube.com/watch?v=uEEBknoHSPM

 

今は昔、1994年7月9日にアメリカで開催されたFIFAワールドカップ準々決勝、ブラジル・オランダ戦のブラジル2点には驚かされた。

パスされたボールはオフサイドの位置にいたロマーリの数メートル横に落ちたが、ロマーオは立っているだけ、そこをノットオフサイドの位置から前進してボールを奪ったベベットがドリブル、シュート、得点したのだ。

この試合の2日前に長男が誕生したベベットは、“ゆりかごダンス”のゴールパフォーマンスで得点を喜んだ。

数メートル。今でも、旗を上げる副審がいるかもしれない。FIFAは、このワールドカップ後8月15日付けで「オフサイド・ポジションにいることは違反(当時)ではない」と通達を発信た。

にもかかわらずだ。この通達はどのくらい浸透していたのか?

 

引用(著作権法第32条):https://youtu.be/pm8TA71Kr1k

 

これも、今は昔。1998年FIFAワールドカップのアジアプレーオフ、日本は1997年11月16日、マレーシアのジョホバールでイランと戦う。

結果、岡野選手のゴールデンゴールでワールドカップのチケットを手に入れるのだが、試合開始早々、イランの選手がオウンゴールをしてしまう。

左から相馬選手がクロスを上げたとき、右側前にいたカズはノットオフ。それはともかく、イランの守備側選手はただ1人でボールをヘッドし、味方ゴールに入れてしまった。

FIFAから派遣されたカルロス副審は、旗を上げ、得点は認められず。”たられば”かもしれないが、この得点が認められれば、あんな劇的な勝利とはならなかったかもしれない。

ボールをプレーする、相手を妨害する

「オフサイドの位置にいることだけでは、オフサイドの反則にはならない」。

仮にゴールエリア内オフサイドの位置にいて、GKなど相手選手がまったく近くにいない状況で味方がシュートしたボールを空振りしたら? もちろん、ノットオフサイド。“ボールをプレーすること”は、ボールに触れることだから。

逆に、“ボールをプレーすること”には、プレーする意図なくボールに触れることも含むので、例え負傷してグランドに倒れている選手の背中にボールが当たったとしても、その選手がオフサイドの位置にいたら、オフサイドの反則。

難しいのは、“相手競技者を妨害する”こと。2016/17年の競技規則から、「明らかに相手競技者の視線をさえぎることによって、相手競技者がボールをプレーする、プレーする可能性を妨げる」「ボールに向かうことで相手競技者に挑む」「自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える」「相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる」と書かれている。

選手、選手の体の部位の位置の判断は、事実の認識(factual perception)はデジタルに判断できるので、AIでも可能だし、その方が正確だ。他方、視線を遮っているかどうか、プレーの可能性を妨げる、あるいは、ボールをプレーする試みが相手選手に影響を与えているかどうなど、妨害の影響の程度は、その場その場の選手の行動分析のみならず、選手のプレーの能力、ピッチ状況など、様々を判断して決めること。

主審や副審の主観的な認知(subjective recognition)に基づくもの。 将来ディープラーニングを備えたAIが導入されたならば可能になるのかもしれないが、現在では難しそうだ。人間が判断していくことになる

実際、オフサイドの位置にいる選手の行動、またGKや守備側選手への影響は、オフサイドの反則になるかどうかの判断のため、それまでよりも、より緻密に評価される。

実際、オフサイドの選手が守備側選手の真横にいても、プレーの邪魔になければノットオフサイドだし、仮に選手同士の接触があっても、守備側選手が勝手にオフサイドの位置にいる選手に触れたとすれば、ノットオフサイドだ。

選手の行動やプレーについては、オフサイドの位置にいる選手のみならず、その選手に渡る前の守備側選手のプレーについても、主観的な判断に基づくことになる。

今では、多くの人が理解しているが、2014/15年の改正には驚かされた。

守備側選手がミスクリアした、パスミスしたボールがオフサイドの位置にいる選手に渡ったら、オフサイドの反則にはならない。

クリアであったり、パスという行動により、そのときのプレーではなくなり、ボールの起点は守備側選手になるということになる。

しかしながら、守備側選手が相手のシュートを防ぎ、そのボールがオフサイドの選手に渡ったら、オフサイド。GKのセーブなら理解は容易だが、フィールドプレーヤ―足で防いだ場合、クリアミスなのかどうかが難しい時もある。

オフサイドは、悲喜こもごも

攻撃側選手の肩が守備側選手よりほんの数センチ出ていたのでのオフサイド、得点の取り消し。

得点を取り消された攻撃側チームは、落胆。一方の得点とならなかった守備側チームは、安堵。それぞれによかったり、悪かったり。

しかし、FIFAは攻撃的なサッカーを助長し、攻撃的になり、得点が入ることによってサッカーが魅力的になるという考えに立っている。

これも、今は昔。 “If doubt, no offside(オフサイドかどうか疑わしかったら、オフサイドにしない”。古くに使われたものだが、攻撃的サッカーを目指すために、審判に対する指示だ。

決して、体が前に出ているのかどうかわなから無かったら、ノットにするということではない。

副審だろうと、VARだろうと、はたまた半自動オフサイドシステムであろうと、位置の判断は確実に行う。

しかしながら、オフサイドの選手の守備側選手への妨害であったり、守備側選手のプレーについては、疑わしきは攻撃側に有利にと言うことである。

 

引用(著作権法第32条):ポーランドサッカー協会

 

元オランダ代表、FIFAのテクニカル・ダイレクターだったファン・バステン。

彼の主張は、一貫して、オフサイドの廃止だ。

オフサイドラインを攻撃側選手と守備側選手の体の位置を比べてどこにするのか、あるいはオフサイドの位置にいた選手が相手選手をどのように妨害しているのか、そんなことも考える必要がなくなる。

オフサイド判定システムの開発も要らないし、副審の任務は、ファウルの認識やゲームコントロールの補助になる。

いや、もしかすると、2人制や3人制審判とするのかもしれない。

もちろん、サッカーの戦術は大きく変わり、その対応が必要になるだろうが、よりダイナミックで、より攻撃的なサッカーになるに違いないと思うが、どうだろう?

来年3月には、IFABの年次総会が開催され、新しいオフサイドの規則が承認されることになるのだろう。

そして、7月には、攻撃側に有利な、守備側に不利な、また、審判にとっては、習熟のための時間と努力が求められるオフサイドが登場することになるのだと思う。

文責:松崎康弘

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松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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