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SAMURAI BLUE VAR初体験

 2017/11/14 サッカー
 

8月31日のオーストラリア戦は素晴らしく、WCロシア大会出場を決めることができた。しかし、親善試合とはいえ11月10日のブラジル戦、槙野が得点したものの、1-3で惨敗とも完敗と評される試合内容だった。ハーフタイムでゴールキーパーを交代させる余裕は、日本にとっての屈辱。

 W杯南米予選を12勝5分1敗で、他国に追随を許さないブラジル。相手にとって不足ないどころか、大きな差を感じさせられた。あと半年でどのように強化していくのか興味深く、また、期待すること大である。

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9分。日本最初の失点は、ランヴィルVAR(ビデオアシスタントレフェリー)からの援助により、バスティアン主審がピッチ横のスクリーンを確認してのPKによるもの。確かにファウル。吉田麻也選手は、コーナーキックからのボールに向かうフェルナンジーニョ選手を引っ張り倒している。

審判は、常にボールを視野に入れようとする。広い視野を確保しようとするものの、オフザボールの接触の判断は難しい。

実験とはいえ、VARが今年から本格的に導入されているブンデスリーガなどでプレーする選手たちは気を付けているのかもしれないが、未導入のプレミアリーグでプレーする吉田選手は、そこまで気を遣っていなかったかもしれない。

サッカーの質の向上のために、VARは“最小の干渉で、最大の利益をもたらす”ものとFIFAは位置づけていることから、以前にも書いたところだが、VARが援助するケースは、次に限られている。

ビデオアシスタントレフェリーが行われるケース

① 得点に関する判定(得点の前に違反等があったかどうか。オフサイド、シュートに至る前の攻撃側の反則、ボールがラインを割った等)。

② PKに関する判定(PKが与えられるべきファウルがあった、あるいは、PKが与えられるべきファウルではなかった。ファウルがペナルティーエリア内か外か等)。

③ 退場に関する判定(決定的な得点の機会の阻止、乱暴な行為の見落とし等)。

④ 間違った選手にカードを示したケース。

吉田選手のホールディングは、②PKに関する判定。日本人としては見逃して欲しいところだが、結果正しく判定され、ブラジルの得点が生まれた。

ネイマール選手もVARからの援助の結果、警告された。オリンピック・マルセイユの酒井宏樹選手、パリ・サンジェルマンのネイマール選手は、10月22日のリーグ・アン(1)の試合で戦っているが、この試合における2人のデュエルにも凄まじさがあった。

激しいデュエルは選手のテンションも上げる。56分、酒井選手が背中でブロックしボールをキープしたところ、ネイマール選手が後方からホールディング。バスティアン主審はネイマール選手のファウルとして笛を吹いてプレーを止めたが、そこにVAR。確認後、ネイマール選手にイエローカードが示される。

 最初このシーンを見たとき、単に警告なのになぜVARが関わるのかと疑問に感じた。

VARが援助するに警告は、ない。しかしよく見ると、ネイマール選手が最後に左手で酒井選手の顔を殴っているようにも見える。もし過剰な力で殴っていたら退場だ。それならばVAR介入も理解できる。

とは言うものの、“最小の干渉で、最大の利益”とは言い難い。得点にからむでもなく、過剰な力も見えず、そもそも主審に判断を任せて良いのかと。VAR正式導入に向けての課題かもしれない。

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 62分、コーナーキックからのボールを、槙野智章選手のヘディングした逆側のゴールエリア外。9分の時とは真逆に、吉田選手がフェルナンジーニョ選手の後方からのプッシングで倒される。日本の得点とならなかったらVARの関与があったのだと思われる。

  また、88分、左からフリーキックを杉本健勇選手がヘディング、ゴールネットを揺らした。TVの解説は「VAR!」と話していたが、乾貴士選手がボール蹴った時、明らかに1人分はオフ。この試合、オフサイドに関してはドルリュー副審VARが担当していたが、監視していたものの、通報せずといったところなんだろう。

 昨年のFIFAクラブWC。鹿島1点目につながったPKの判定は、FIFA大会初めてのVARの援助によるものだった。しかし、まだまだ日本の選手、また観客、視聴者は慣れていない。

 正式には、まだ実験であるVAR。しかしながら、既にFIFA コンフィデレーションズカップ、U-20 WC、また、ブンデスリーガ、セリアA他、各国トップリーグで使用されている。ブンデスリーガの試合を見ていると、まだまだ解決すべき課題はあるものの、“こなれて”きているなと感じる。きっと審判、選手のみならず、誰もがVARに慣れてきているのかとも思う。

 世界で導入が更に進み、また、実験から正式にVARの使用が競技規則に規定されることになれば、日本での導入もそう遠くないのかもしれない。もちろん、J1だけで1億円/年を超えると想定される機材運用費、また、VAR派遣費用の財務的な課題に加え、VARの養成、人数確保も決して簡単ではないところであるが。

VARによる正しい判定の提供とそれによるサッカーの質の向上は、時代の要請でもある。

松崎康弘●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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