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クラブワールドカップ準決勝で見た!ふたつの歴史的瞬間

 2016/12/21 サッカー
 

日本サッカー協会の1級審判員、そして国際審判員としても活躍して来た松崎康弘氏によるサッカーレポート 『ゴール!』 今回はクラブワールドカップ準決勝・鹿島アントラーズVSアトレティコ・ナシオナル戦の結果と、いよいよ始まろうとしているビデオ・アシスタント・レフェリーについて検証する。

クラブワールドカップ2016・準決勝

2016年12月14日(水)、@吹田スタジアム。FIFAクラブワールドカップ(FCWC)の準決勝、鹿島アントラーズVSアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)戦で、2つの歴史的瞬間を見た。

鹿島アントラーズの決勝進出

ひとつ目は、鹿島の決勝進出を果たすことになった勝利。鹿島は、ナシオナルの猛攻を献身的で集中力を切らさなかったDF陣と、この試合のMOMとなった曽ヶ端準の好セーブ。

そしてナシオナルのルエダ監督が“過信”と言い切ったように、アジア相手なら勝てるという驕りもあって、アジア勢初のクラブワールドカップ決勝に進出した。

決勝ではUEFA(ヨーロッパ)代表、Cロナウド擁するレアル・マドリードと対戦。

柴崎岳の2得点と一時は逆転、試合をリードする時間もあった。結果、延長戦でCロナウドに2点入れられ準優勝となったが、Jリーグチームの強さを示すと共に多くの感動をもたらしてくれた。

44分、52分、柴崎の左足がボールをレアルゴールに叩き込んだ時、観客席で思わず立ち上がり、両手を上げてしまった。

多くの応援に支えられ、また時差もなく、横浜とは言えやり慣れたピッチというホームアドバンテージもあったものの、流石に11日で4試合は辛い。

Jリーグチャンピンシップも加えると16日で5試合。とてもサッカーの日程ではない。

クラブワールドカップは、かつてのトヨタカップを引き継ぎ、その多くを日本で開催してきた。それまでUEFAとCONMEBOL(南米)のホーム&アウェー方式行われていたインターコンチネンタルカップを、中立地の日本がトヨタカップとして引き取ったのは1981年。

その後、2000年からクラブワールドカップとなり、トヨタカップの歴史もあり、日本では8回の大会を開催している。

しかし、ジャンニ・インファンティーノFIFA会長は、新しい形、32クラブの参加による大会にしたいとも話している。来年はUAE開催。

現形態によるクラブワールドカップ日本開催、開催地代表の鹿島が決勝で戦ったことは、最初で最後になるに違いない。

FIFA大会初めてのビデオ判定

ふたつ目は、14日の試合の鹿島1点目につながるFIFA大会初めてのビデオ判定。

前半30分、ナシオナルにファウルがあって、FKが鹿島に与えられた。柴崎が蹴ったボールを追いかけようとした西大伍にナシナオルのオルランド・ベリオがチャレンジして、倒してしまう。

西は両手を上げてアッピールするも、プレーは続けられた。観客席から見ていると、接触はあったがファウルには至らないと主審が確認して流したのだと思った。

ボールは鹿島ハーフに移動し、ナシオナルのスローインの場面。主審は、ハンガリーのカッサイ。スローインをやるなと指示している。負傷者もおらず、交代の様子もない。見ていて何が起こっているのか分からなかった。

1分程度経過した後(随分長く感じた)、カッサイ主審がテレビのジェスチャーを示しながら、バックスタンドの方に向かった。果たしてそこには、ブースがあった。カッサイ主審はそこでモニターを確認した後、PKを示した。

ああ、そうか。これがビデオ判定なんだと、ようやく思った。ナシオナルの選手による抗議があったものの、PKの判定は変わらず。土居聖真が蹴って得点が与えられた。

予感

クラブワールドカップは試合レベルの高さもあるが、試合数も8試合、大会期間も11日間という手ごろさもあるのか、FIFAの新しいアイディアの実験の場になっているようだ。

2007年ゴールライン・テクノロジー(GLT)の実験、2013年のサッカー競技規則改正でGLT使用が正式に認められて初めての使用大会。そして、今度はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の実験である。

サッカーのおけるビデオ判定導入の是非は、様々に議論されている。ビデオ判定が求められた時に発生する試合の中断。

そもそも、判定は主審に委ねられているもの。瞬時に下された判定を尊重することが大原則。仮にミスが起きたとしても、それはサッカーの一部に過ぎない。

一方、重大なミスで試合の品質が貶められないように、機械技術を有効に使うべき。機械技術は、主審の判定を援助するもの。ラグビーを含め他のスポーツでも導入されている、等々。

ビデオ・アシスタント・レフェリーの実験は、2年間かけて行われることになっている。すでに、その手続きやビデオのチェックを中心に“オフライン”の試験。また、アメリカのMSLではライブの試験も行われていた。

クラブワールドカップの最初に3試合、大きな判定ミスもなく、ビデオ・アシスタント・レフェリーの登場する場面はなかった。

しかし、この試合前にビデオ・アシスタント・レフェリーがチェックを行っている部屋の映像が大型スクリーンに映され、何か起きるのではないかと予感された。

●ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の原則

1.VARが介入できるケースは、限られている。

①得点に関する判定(得点の前に違反等があったかどうか。オフサイド、シュートに至る前の攻撃側の違反、ボールがラインを割った等)。

②PKに関する判定(PKが与えられるべきファウルがあった、あるいはPKが与えられべきファウルではなかった。ファウルがペナルティーエリア内か外か等)。

③退場に関する判定(決定的な得点の機会の阻止、乱暴な行為の見落とし等)。

④間違った選手にカードを示したケース。

2.最終的な判定は、主審が行うことに変わりはない。主審はピッチ脇のあるモニターで、ファウルなどを確認することもできる。もちろん、選手やチームからのチャレンジもできない。

今回のビデオ判定について

1・良かった点

①なんといっても、FIFAの大会できちんと機能したこと。

②選手のコメントが様々に聞かれるが、ファウルの抑止力になっている。これまでだと主審が見えないところならば、シャツを引っ張っていたかもしれないが、それもVARによって暴かれてしまう。

③結果正しい判定が下された(正義が守られた?)。

2・検討すべき点

①時間がかかる。
今回もスローインになったときに確認があって、逆サイドにあるモニターを見に行って、そしてPKの判定。2分を超える時間がかかった。
これまでのMLSでの実験でも1つの判定に2~3分かかったと聞く。1試合に3つもあったら10分弱の時間がかかる。間延び、テレビの放送枠に入らないことも懸念される。

②2つ以上の重大判定が続いた時のリスク。
今回は柴崎がFKを行ってから、プレーが切れずスローインになったが、もし逆襲で鹿島が得点されたら、大変だ。相手の得点は認められず、元に戻って鹿島にPKが与えられる。

③ビデオ確認が増える可能性がある。
この試合の前半アディショナルタイム、ナシオナルのオルランド・べリオは明らかにシミュレーション。遠くから見ていたナシオナルの監督はテレビのジェスチャー。チャレンジはないにしても、主審に自信がなく、選手や監督が文句を言えば、都度モニターで確認しないだろうか。

④実験とは言え、こなれない。
円滑に、違和感なく判定ができるような手続きを構築するには時間がかかりそうだ(FCWCでやる前にもう少し実験が必要ではなかったか)。

実際、16日のレアルとクラブ・アメリカ戦の後半アディショナルタイム。Cロナウドが得点するがその前の抜け出しがオフサイドかどうかで“VAR判定中”のメッセージが大型映像に流れた。

上から見ていても、明らかにノットオフサイド。どうしてこれがビデオ判定なのかと思ったら、後日、これは手続きの間違いであったとFIFAが説明している。

⑤判定の確実性
今回のクラブワールドカップ、ピッチ上で笛を吹く審判だけでなく、7人の世界のトップのトップの審判がビデオ・アシスタント・レフェリーとして招聘されている。

そのうちの1人、友人のレフェリーに「大変だね~」と質問すると、「ピッチ上を走る方が楽しいけれど」と答えていた。

14日の試合後FIFAマッシモ審判部長に、「試験がうまくいっておめでとう」と言うと、「世界トップ審判が判定しているから成功した。もし、そうでなかったらうまくいくのかどうか危惧される」と返してきた。

確かに1試合3人。多くのモニターで、何度も確認するのでVAR判定の確実性は高くなるに違いないが、判定能力の低いVARの介入による混乱は危惧されるところだ。

そもそもVARの判定に確実性がなければ、主審が都度確認しても、判定がひっくり返らないことも多々発生する。

⑥ピッチ上の主審の不信感、VARへの依存
最終的にはピッチ上の主審が最終判断を下すにしても、VAR判定があれば、選手は主審に不信感を抱くに違いない。

西が倒されたケース。主審が注視することはボールの落下地点他いくつかあったが、そもそも副審が見ていればよかった。

⑦コスト
クラブワールドカップのVAR、FIFAはどのくらいの費用を投じたのか分からない。しかし、聞くところによれば、仮にJリーグで導入するとなれば10~20億円のイニシャルコストがかかる。プラス、運営費。また、VARできるだけの多額の審判員養成費用。

現在のところだと、検討すべき点の方が良かった点より多いが、インファンティーFIFA会長の導入に対する決意は強いと聞く。

時間短縮の問題や判定の確実性向上等は、きっと解決して行くのだと思う。他方、2つの重大な事象が発生した場合の考え方を含む、競技規則施行の精神や論理性を確立することはそう簡単ではない。

クラブワールドカップ後、ブラジル、フランス、ドイツ、イタリアなどのサッカーどころの国を含む12か国の大会で、まだまだ実験が続けて行われると聞く。

実験を行っていく中で、しっかりとした手続きと共に世の中に受け入れられる考え方も確立してほしいものだ。

サッカーにおける審判の考え方が変わる。それが是になるように・・・。

【了】
松崎康弘●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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