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ソフトボール日本代表に見る、女子アスリートという生き方

 2016/08/14 ソフトボール
 

2020年の東京オリンピックでソフトボール・野球・空手・スケートボード・スポーツクライミング・サーフィンが追加種目として決定した。野球・ソフトボールは一度廃止の憂き目にあっていただけに喜びはひとしおだ。特にソフトボール。野球はプロ野球・WBCなど他にも注目を集める場があるがソフトボールの場合はそうはいかない。オリンピックだけが唯一、世間から注目される大舞台だと言っても過言ではない。廃止から復活までの空白の12年はとても長かった。それだけに喜びは大きい。だが女子アスリートの選手としての寿命は男子に比べ短いのが現実だ。それは何故か?今回は女子のアスリートが抱える問題点についてレポートしてみたい。

東京オリンピックでソフトボールが復活

2016年8月4日。野球とソフトボールがオリンピック正式種目として復活した瞬間を誰よりも待ち望んだのは、女子ソフトボール関係者だと思う。2008年の北京オリンピックで、ソフトボール女子日本代表は悲願の金メダルを獲得した。しかし、その後のロンドン、リオデジャネイロでは正式種目から外れ、女子ソフトボールは一過性のブームとなってしまった感が否めない。

オリンピック除外は日本の悲劇

そもそも、ソフトボール女子日本代表は2000年のシドニーから北京まで3大会連続でメダルを獲得しており、アメリカと並ぶ世界屈指の強豪チームだ。

2009年以後も日本は主要国際大会で1、2位を独占しており、常にソフトボール界を牽引してきた。もしロンドンやリオデジャネイロでもソフトボールが正式種目であれば、高い可能性でメダルを獲得していたことだろう。

ソフトボールがオリンピックから消えた2009年から2020年。この空白の12年は、選手たちにとって決して短い期間ではない。

特に、動体視力や瞬発力を要するソフトボール。12年という歳月は、それらが衰えるのに十分な時間だ。加えて女子アスリートは、結婚や出産というライフスタイルの変化に対応しなければならない。

また、女子アスリート特有の健康管理上の問題もある。その一つが運動性無月経。2014年に国立スポーツ科学センターが実施した調査で、約4割のアスリートが無月経を含む月経周期異常であることが分かっている。

一般的に、男子に比べると女子アスリートが高いパフォーマンスを発揮できる時間は短い。そんな中で、この空白の12年をソフトボール女子日本代表として戦ってきた彼女らは、どう捉えているのだろうか。

年齢や環境と戦う女子アスリート

ソフトボールがオリンピックから消えていた時代に、まさにピークを迎えていた選手もたくさんいる。しかし、そんな彼女たちから虚無感や悲壮感は感じられなかった。むしろ「もう一度オリンピックにソフトボールを」という新たなモチベーションを見つけ、国内リーグや地域イベントに積極的に尽力していた。

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もう一つ強く感じたことは、彼女たちは本当にソフトボールが好きだということ。

アスリートの世界。練習の中では監督やチームメイトから厳しい言葉が飛ぶ。至近距離からの強烈な打球を体に当てて処理する。肌は黒く焼け、手には血豆を作り、身体中に生傷が絶えない。世の中の大半の女性が憧れるであろう、白い肌や綺麗な手とは無縁だ。

それでも練習が終わった後や、試合に勝った時の彼女の笑顔に後悔は微塵も感じない。選手にソフトボールをやっていて良かったと思う瞬間を聞くと、皆「勝った喜びをチームメイトと分かち合えることは何事にも変えられない」と答える。

東京オリンピックでソフトボールが正式種目に決まった時、2020年には30歳を過ぎてしまう日本代表選手に話を聞いた。返って来た言葉は、「好きなソフトボールを今よりもっと上手くなって、30歳を超えても代表に選ばれるように頑張る」だった。

後悔しないから強くて美しい

では、そんな彼女たちの日常は一般女性とかけ離れているのかというと、そんなことはないのだ。イケメン芸能人が好きだし、テレビで紹介されるようなカフェにも行く。練習後にエステにだって行くし、オシャレだってしている。結婚願望もある。寮生活ではチームメイトとドライブを楽しんだり、部屋で恋バナに興じる。どこにでもいる女子なのだ。

私はよくアスリートに対して「その競技をやり続けていることで、得たものと失ったもの」を聞く。例えば高校球児であれば得たものを「仲間」や「特別な青春」と答え、失ったものを「文化祭などの学校行事」や「アルバイト」などと答える球児が多い。

ところが女子ソフトボール選手は、ソフトボールを続けていることで失ったものはないと答える選手が多い。勝利という達成感や感動もチームメイトという友情も、女子としての魅力や幸せも何一つ失っていないのだ。

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もし、ロンドンやリオデジャネイロにソフトボールが正式種目として残っていれば、彼女たちはオリンピックメダリストという肩書きを得たかもしれない。しかし、それを振り返っている代表選手などいないのだろう。

限られた時間の中で、常にポジティブにいつまでも上手くなりたいと思うアスリート。そんな刹那的な強さと美しさがあるから、女子ソフトボールは観ていて応援したくなるのだ。

【了】

佐藤翔一●写真・文

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ライター紹介 ライター一覧

佐藤翔一

佐藤翔一

1985年生まれ。東京経済大学コミュニケーション学部卒業後、地域ミニコミ紙の編集記者、広告代理店を経てフリーライターへ。
元高校球児。高校時代は50m6秒フラットの俊足を武器に、中国地方一のセーフティバンター(自称)として活躍しそうになった。
現在はフットサルで右足首靭帯を損傷し、なんとかごまかしながら山登りやスノーボード、サバイバルゲームなどに没頭しつつ、野球をはじめとするスポーツを幅広く取材・撮影・執筆。3大好きなアスリートは野球の嶋基宏、サッカーの大久保嘉人、K1のレイ・セフォー。

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