宇部商業(山口県)玉国光男監督 3 ~選手とのコミュニケーション戦略~
戦力不足をコンバートという作戦でチーム力を底上げし
素振り・ティーバッティングでスイングの強化。
神社の石段登りやタイヤをひっぱるトレーニングで強靭な下半身を作る練習を行なう玉国監督。
今回は選手とのコミュニケーション方法について聞いてみた。
玉国監督の選手へのコミュニケーションは、言いたい事を言ったら即おしまい。
いわゆる選手からの一方通行に終始し、それに対する不安は微塵も感じていないというから驚きだ。
「確かにこれでは選手の腹の底はわからないかもしれない。卒業してから、お前ってそんなヤツだったんかと笑うことがありますから。
でも、どの生徒も野球をうまくなりたいわけでしょう。俺が責任を取る、俺を信じて頑張れと、単純にそれだけですよ。私はよく、強くなりたくないからそれでええよと生徒に言うんですが、彼らは見放されるのが一番こたえるみたいですね。ちょっと卑怯なやり方ですが、投げ出されたら生徒はやります。教えてくださいと。そうなったとき、彼らは一気に成長していきます。」
※仙台育英高校の竹田監督は生徒一人ひとりとの対話を重視し「希望」を聞き自分が進むべき役割を決めさせる事と比較すると
いっけん指導法が真逆の様に感じる。
しかし「生徒の自主性」を出せるという部分では共通点があると感じた。
平成17年の夏のチームも、その前の春の2回戦で愛工大名電(愛知)に得点差以上にやられ、鼻をへし折られたことが飛躍へとつながるひとつの要因となった。
” このままでいいの? ”
” たとえまた甲子園に行けたとしても、恥をかいて帰ってくるだけだよ ”
監督の挑発めいた言葉に乗せられ、選手たちはいわゆるセンバツ後のバーンアウトに陥ることなく、最後の夏へと挑んでいった。
「昨今の若い監督は、兄貴分というスタイルで生徒と蜜に接しながらやるというが、それは自分がそういう接し方しか受けてこなかったからじゃないかな。でもワシらの時代は何でも有無を言わさずだったから、同じようになんてやりようがない。それもこれも時代の流れ。ともすると我々の方が通用しないのかもしれないが、いずれにしてもどちらかだと思う。大切なのは、そこに嘘がないこと。そうであれば、生徒はついてきます。」
野球部11項目
玉国監督は教員ではない。だから学校内での選手のすべてを知ることはできないが、逆にはっきりとグラウンドでの勝負だと、選手にも言いきる事ができるのだ。
「確実に実力どおりですから、周囲も納得です。日ごろから先生に迷惑をかけたらあかんぞ、学校生活もきちんとしろとは言ってますが、把握しきれん部分は仕方ありません。でもね。グラウンドでの態度を見ていれば学校の様子もだいたいわかる。大きな差はありませんよ。」
全生徒の4分の3を占める女子生徒たちが、実は監督の強い味方だ。「あの子、教室でもダメですよ。」とか「今年の〇〇君はとても頑張っているから甲子園に連れていってあげてね。」などと声をかけられ、その度に監督は目尻を下げて「よし絶対に任せておけ!」と答えるのだった。
宇部商業には玉国監督が作った「野球部 11項目」という掟がある。
一、挨拶は相手が誰であってもその人の正面を見てすること
一、グラウンドでは絶対に頭を下げないこと
一、グラウンドでは体での意思表示はしないこと
一、グラウンドでは私語を一切つつしむこと
一、グラウンドでは歩かないこと。
常に体を動かし機敏性を失わないこと
一、グラウンドでは気持ちの切り替えを早くし、移動するときは大声を出すこと。
一、グラウンドでは守備のとき投げる相手を指示すること
一、常にボール1球を大切にすること
一、闘志、ファイトを前面に出すこと
一、上級生は上級生らしく下級生は下級生らしくけじめをつけること
一、男女交際は一切しないこと
「チームを預かったとき、作りました。それが今もまったく変わらない部の指針です。私らはこういう考えでやっていくぞとという柱を示し、さらに、チームが強くなる為にはどうしたら良いかをルール化しました。それらを守れなかったときには、部長や監督が怒る。生徒は怒られる理由がわかってますから、絶対に反論してきません。あれはダメ、これがダメ、とあれこれ言ったらかえって混乱してしまう。徹底させることですよね。」
シンプル・イズ・ベスト。
子供たちに合わす必要はないと、キッパリ言う。
人として、野球部員としてあるべき姿はいつだって同じだと、その教えに迷いはなく、わかりやすさも格別だ。
そんな監督の指導を受ける選手たちは、毎年生徒会長、副会長をはじめ体育祭など常に行事の先頭に立っている。
あくまで部活動なのだからと野球以外の時間を大切にしている姿は、甲子園のプレー同様好感が持てた。
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