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智弁学園(奈良県) 小坂将商監督 後編 ~社会人経験者ならではの指導~

 2016/04/15 高校野球と甲子園
 

38歳にして甲子園で優勝を手にした小坂将商監督。
その手腕は「気づき」にあった。親も教えられないような事まで徹底指導する。
そうした独自の指導方法は小坂監督がビジネスマンとして社会人を経験してるから出来ることだと言う。

智弁学園(奈良県) 小坂将商監督 前編 はこちら

大企業で培った経験が監督でも役立っている

こうした視野の広さと敏感さは、高校や大学で受けた指導もあるが
大きいのは社会人時代だという。
松下電器(現・パナソニック)でプレーしていたとき、人としてどうあるべきかを身を持って教えてくれた先輩がいた。
いち社会人としての紳士たる態度、節度。もし大学を出てそのまま学校の教員になっていたら、「今の指導はとてもできなかった」ときっぱり。
教員を悪くいうつもりは毛頭ないが、校内という狭い世界の中で各々が生徒の前では個人事業主、つまり社長のようになる。
それが時に感覚を麻痺させ、考え方を偏らせ、協調性なく社会では通用しないのでは? と思わせる事例が意外に少なくない。
そんな中で、大企業で培った経験は、社会で生きる上でのひとつの尺度として大きく役立っているのだ。

でも、こうした視点を持ったがために、高校生に対する要求が高くなってしまったのも事実。
小坂監督が監督になったのは10年ほど前だが、当初はダメダメ攻撃の連続。
社会人でプレーしただけに技術面でも、そして私生活面でも厳しくしてしまい、「選手を委縮させたかな」と振り返る。

2年目に早くも甲子園と、指導力の高さはすぐに評価されたが数年後に小坂監督が感じたのは「厳しいだけじゃダメだな」。
小坂語録のひとつ、「そこに愛がないとダメ!」。
監督にも子どもが生まれ、かける言葉にも成長を期待する親心が、選手へも注がれるようになった。
もちろん今でもすごく厳しいのだが、選手の誕生日をチェックしてそれぞれに声をかけるといった自分なりの工夫を、少しでも選手の心に寄り添いたいと苦心しながらも続けている。
そんな努力が結果として一気に大輪の花を咲かせた――それがこの春のセンバツ優勝だったと感じている。

優勝インタビューでのお立ち台で、右に左にと一礼した小坂監督。
饒舌な指導者が多い中で、代わりに出た純粋な喜びと感謝の念。
さすが社会人出身の監督! と納得だった。

智弁学園は超進学校

ところで、奈良智弁も智弁和歌山も超進学校で、
高校では部活動は野球、陸上に限られ、その他の生徒は勉強漬けの日々を送っている。
普段の授業は50分ならぬ70分授業。まるで大学なみで奈良智弁の場合、最後のコマが終わるのは17時15分だ。
夏休みも補講が入り、純粋な夏休みはわずかなんだとか。

そんな中で野球部が甲子園に行くと、応援に行けて生徒は息抜きができ大喜びするらしい。
そんな生徒のためにも頑張りたいと、智弁和歌山の高嶋監督も言っていた。
野球部は両校ともに早く授業を終えて練習を始めるが、小坂監督が選手に厳しく対応するのは校内の一般生徒に応援される部になるためでもある。
同時に、忙しい先生方にも認めてもらえるよう謙虚な姿勢を崩してはいけないと常日頃から自分に言い聞かせている。

対外的に華やかな一面ばかり報道される高校野球だが、その裏では、指導者の地道な努力。
ベテラン監督はともかく、中堅、若手の監督が真に認められる
指導者になるためには、細やかな気配りこそ大事だろう。

そして、いざ試合となれば大胆采配。
この落差が大きければ大きいほど、
魅力あるチームができるに違いない。

【了】
藤井利香●文

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ライター紹介 ライター一覧

藤井利香

藤井利香

東京都生まれ。日本大学卒。
高校時代は(弱小)ソフトボール部の主将・投手・4番として活躍。大学では、体育会ラグビー部の紅一点マネージャー。関東大学リーグ戦グループ・学生連盟の役員としても活動。
卒業後は商社に勤務するも、スポーツとのかかわりが捨てがたく、ラグビー月刊誌の編集に転職。5年の勤務のあと、フリーライターとして独立。高校野球を皮切りに、プロ野球、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ取材を長く行う。現在は、スポーツのほかに人物インタビューを得意とし、また以前から興味のあった福祉関係の取材等も行っている。

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