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宇部商業(山口県)玉国光男監督 2  ~選手を鍛える練習法~

 2016/02/11 高校野球と甲子園
 

越境入学のない公立高校で強いチームを作るにはコンバートしかないと語った玉国監督。
その苦労は想像に絶するが、ふふんと一笑に付す。
しかしながら、この戦術は中小企業の経営者も大いに見習うべきではないかと感じた。

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「過去勝てたチームを思い起こすと、投手経験者を野手にコンバートできる、そういうときが強いです。投手ができる選手というのは、打つほうも守るほうもオールラウンドにできる子どもが多いですからね。でも最近は投げるだけ、投手なら投手しかできない、つぶしのきかない子どもが増えています。少年野球の時にいい選手であるがために使われ過ぎでつぶれてしまったり、そのポジションしかやったことがないとという偏りみみられる。もっと大きなスケールで野球をやってもらいたいんだか。うちで言えば、つぶしがきくときが強いんです。」

そのうえで利点をあげるとしたら、どの選手にも常にチャンスがあることだという。練習試合でミスした選手を次々と交代させる指導者をよく見るが、宇部商業の場合はそう簡単に交代させるわけにはいかない。

「だから、ずっと見続けてやることができます。ずっとやらせる事ができるから、うまくなる。交代させて奮起を促すことも必要でしょうが、いつくるかわからない次のチャンスで即ミスを取り返せるほど、高校生はまだ力をもってません。うちのように次のチャンスが必ずあるというのはとても大事。層が薄いなりにすごく経験が多いから、それほど能力が高くなくても高校生同士、どうにか同じレベルで戦うことができるだと思います。」

もちろんレギュラーで満足しきって油断していると、監督から大目玉を食らう。そのあたりの手綱さばきはお手のもので「慣れたらあかん。時には脅しをかけんとね(笑)」。

「それに2年生あたりまではどにもならんような選手が、レギュラーもらって上級生になると自然とピリッとしてくるんです。大人だって単純に役職を与えられたら張り切るでしょう。周りから認めてもらって責任感が出れば、みんな一生懸命やる。私はね。それを見るのが楽しみなんだよ。むしろ、それしか楽しみがないと言ってもいいなぁ。」

教えることは30年間・変わらない。

宇部商業のグラウンドは、校舎奥の小高い丘の上にある。専用球場で雨天練習場を併設し、公立校としては恵まれた環境だ。
残念ながらナイター設備はなく、バックネットに数個のライトが取り付けられているだけ。
これはあくまで道具の片付け用で、暗闇の中、その明かりを頼りにティーバッティングなどを行なっている。

練習内容は、決して難しいことは行なっていないと監督は言う。単純明快。強くなるにはバットを振るのが一番という考え方だ。

「ウエイト場もあるんですが、これは故障者が主に利用するだけでうちではほとんど行いません。ウエイトトレーニングを行なうにはやり方を熟知した専門家がいないと効果が出ないとし、むしろ危険。力をつけたいと思ったら、徹底的にサーキットトレーニングをするまでですよ」

夏のスポーツは冬場の練習が決め手と、冬は選手の大嫌いなメニューが勢ぞろいする。
正門と球場を結ぶ坂道や、近所の神社の100段近い石段登りが宇部商業のトレーニング劇場だ。

またトレーニングでは、10トントラックのタイヤを使って起こしては転がしてと、その手段は基本的に昔も今も変わらない。

「廃材で使ったタイヤです。腕力もつくし、足腰も鍛えられる万能グッズですよ。生徒が一番嫌がるから、ずっと続けてやろうと思って(笑)。バットは普段より重いものを使ってスイングさせますが
そもそも道具なんか簡単に買えませんからね。でもこれで十分、力がつきます。」

時には監督自らトレーニングの手本をビシッと示して選手を納得させる。

「あとは、見ていることがとても大切だと思う。冬のトレーニングになるとコーチに任せっきりにする指導者もいるが、私はどんな場合でもそばについていた。そうすることによって生徒は応えてくれるんです。平気でサボったりしたらなめられる。そうなったら終わりです。」

一貫して小細工とは無縁。こうだそ!こうするんだとポイントを明確に指導し、選手との間に必要以上の会話は無い。

玉国光男監督が教えることは30年間全く変わらないのだ。

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ライター紹介 ライター一覧

藤井利香

藤井利香

東京都生まれ。日本大学卒。
高校時代は(弱小)ソフトボール部の主将・投手・4番として活躍。大学では、体育会ラグビー部の紅一点マネージャー。関東大学リーグ戦グループ・学生連盟の役員としても活動。
卒業後は商社に勤務するも、スポーツとのかかわりが捨てがたく、ラグビー月刊誌の編集に転職。5年の勤務のあと、フリーライターとして独立。高校野球を皮切りに、プロ野球、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ取材を長く行う。現在は、スポーツのほかに人物インタビューを得意とし、また以前から興味のあった福祉関係の取材等も行っている。

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