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中東の笛は本当にあるのか?審判の目からみた真実とは

 2016/09/27 サッカー
 

[aside type=”normal”] 日本サッカー協会の1級審判員、そして国際審判員としても活躍して来た松崎康弘氏によるサッカーレポート 『ゴール!』 今回はワールドカップ・アジア予選で言われるようになった「中東の笛」からスポーツ文化のあり方を考えてみたいと思う。[/aside]

中東の笛はあるのか

今、ここコロンビアでは、FIFAフットサル・ワールドカップが開催されている。世界のトップ24チームが集まり、言わずもがな高いレベルのフットサルが展開されている。
驚きは、これまでフットサル・ワールドカップ優勝チームはブラジルかスペインの2か国だったが、両チーム共にラウンド16、準々決勝で敗退。新たなチャンピオンが生まれることが明らかになったことだ。
アジアで常に日本と雌雄を決していたイランがブラジルを破った。フットサル日本代表がここに来ることができなかったことが、本当に悔やまれる。

世界トップのチームのみならず、世界40人のトップ審判もここにいる。毎日のように各試合を担当する彼らのレフェリングを見て、そして彼らと生活を共にしているが、性格もレフェリングも本当に様々。強さを表現する審判もいれば、常に落ち着いて選手に対応する審判もいる。面白い。そんな中、中南米はずいぶん違うなと感じる。同じラテンでもイタリアやスペインはやはりヨーロッパだ。

流石にファウルかノーファウルか、事実の判断に差異はないが、選手の気持ちの読み方、対応の仕方はまさにいろいろ。また、審判の対応によって、選手のリアクションが異なってくるのは面白い。イエローカードを出されて静かに受け入れる選手もいれば、一瞬沸騰するが怖い審判の顔を見て引き下がる選手、どうしても収まらない選手もいる。

日本では“中東の笛”と表現し、中東の審判の異質さを報道しているが、ここにいると中東もやはりアジアだなと感じる。
ワールドカップといってもフットサルであるためなのか、フットサル運営には生命線であるはずの時計がとまってしまったり、ブザーが使えなかったり。また、ボールの空気圧が十分でなく、選手がボールの交換を求めていたシーンもあった。

ワールドカップ予選・日本VSタイ戦でのイエローカードを考える

ああ、そういえば、9月6日にタイで行われたサッカー・ワールドカップ予選の28分。ボールがインプレー中にもかかわらず、森重真人がボールの空気圧の不具合をアピールした。主審はイランのトーキー。プレーを止め、ボールを手で押したりして、何の問題もないと確認。そして、森重にイエローカードが示された。

唖然。なぜ、イエローカード? その理由は?
日本は原口のゴールで1点リードしていた。まだ前半であるので時間稼ぎは考えられ難いが、トーキーにとってはそうでなかったのだろう。警告の理由は明らかにされておらず、推測に過ぎないが、競技規則には次のように書かれている。

[aside type=”warning”] ●プレーの再開を遅らせる
主審は、次のようにプレーの再開を遅らせる競技者を警告しなければならない――。
(中略)
――やり直しをさせるため、間違った場所からフリーキックを行う。[/aside]

主審に何かをやらせて、それで時間を稼げば、遅延行為で警告される。森重の行動はそのように取られてしまったのかもしれない。

2011年では「中東の笛」と騒がれた

試合前、主審がトーキーだと発表された。すると、2011年にカタールで開催されたAFCアジアカップ2011グループリーグのシリア戦で、GKの川島永嗣を退場させた因縁の審判だとか、PKをなりふり構わず与えるとか、ネガティブに報道された。
そして、試合後。イエローカードは前代未聞だとか、再度“中東の笛”に苦しめられたとの論調が広まった。

2011年の試合はよく覚えている。後半26分、長谷部誠からの不用意なバックパスを一旦川島がクリア。そのボールをシリアの選手か今野泰幸のどちらかが蹴ったところ、オフサイドの位置にいたシリアの選手に渡り、その選手を川島がトリップしたというもの。
副審は最後にボールに触れたのが攻撃側選手か守備側選手か分からないのであれば、オフサイドの選手に渡ったところで旗を上げなければならない。最終判断は主審。主審は最後に今野が触れたと見た。その後、川島がトリップしたので、(当時は)退場、そしてPKとなる。

翌日、ゴール裏からの映像を見ることができた。それを何度も繰り返してみると、最後にボールに触れたのはシリアの選手の白いシューズであったことがどうにか分かる。オフサイドが正しく、その後のPKも川島の退場も本来はなかった。
副審が長く旗を上げていたので混乱は大きく、日本の選手の抗議も激しかった。しかし、ビデオ判定もなく、ビデオでコマ送りにしてようやく分かる事実。これで誤審だ、誤審と大騒ぎしたら、審判をやる人はいなくなってしまう。ところで、バックパスの不用意さはほとんど論じられていない。

サッカーの競技規則を遵守することでサッカーがプレーされている。そこに、判定は主審に任せ、その決定が最終であると規定されているのであれば、不満を持つことは十二分に理解するものの、判定に物申すのは天に向かって唾を吐くようなものだ。

中東の笛はあるのか?

このシリア戦、このPKで同点に追いつかれてしまったが、後半37分、今度は岡崎慎司へのファウルで日本がPKを獲得。これを本田圭佑が決め2-1で勝利。ところが、岡崎へのファウルを異なった角度からの映像で細かく見てみると、シリアの選手がまずクリアし、その足に岡崎選手が当たったのであり、本来ならノーファウルだ。
2つのPK。最後のワンタッチがとても難しく、その結果に間違いとなったが、主審のトーキーにとっては、今野が最後のボールを触れた。岡崎を直接ひっかけた。それが事実だ。
トーキーがPKを多く取るというのも事実。ただ、そこに彼の意図がある訳ではない。トーキーは、見えたままに、笛を吹く。審判として、基本の“き”を実行しているに過ぎない。

トーキーは、目に見えたことを公平に判断し、笛を吹く、笛を吹かない、カードを示す、示さない。彼には数度しか会ったことがないが、真面目な性格の持ち主。そう見えた。
振り返って、9月6日。森重のカード以外、とくにフラストレーションのたまるような判定があっただろうか? 森重の行為を競技規則の考えに当てはめた。遅延行為。だから、警告をした。

ここコロンビアでも、一つひとつのプレー、転倒、プッシュ、行為をきちんと捉えて対応する審判もいる。一方、カードは極力出さないで試合を終わらせようとする審判もいる。それらが主審の裁量の範囲を超えたら問題だが、範囲内であれば主審がどのように試合環境を整え、良い試合運営に資するのであれば評価されるべきことだと思う。
審判も試合環境だ。芝が長いピッチもあれば短いピッチもある。それに慣れず大事なところで失点しまった。失点の原因になった出来事を誰かが聞いてくれるかもしれない。しかし、まずは言い訳ではなく、どうあれきちんとプレーすることかなと思う。

【了】
松崎康弘●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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