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吉田麻也は苦笑いしていたかもしれない。

 2019/01/26 サッカー
 

2017年11月10日にフランスのリールで行われたブラジルとの国際親善試合。

2018FIFAワールドカップの準備もあり、このときVARが導入された。
9分、吉田がコーナーキックからのボールに向かうフェルナンジーニョ選手を引っ張り倒したのをVARに“見つけられ”、PK献上となった。

そして、2019アジアカップ。AFCは、準々決勝からVARを導入。日本-ベトナム戦がAFC初のVARだ。

24分。左からのコーナーキックを蹴ったのは、柴崎岳。
ゴールエリア中央で吉田がヘディングしたボールは、ベトナムGKの右側を抜けてゴールイン。
日本にとって良い時間帯での得点となった。

しかし・・・、ゴールインの瞬間から約1分後、VARからの情報が主審のモハメッド・アブドゥラに伝えられ、TVの形のシグナルが示された。

モハメッドはこの大会、日本-ウズベキスタン戦を吹いた主審である。

VAR(審判)は、オーストラリアのクリス・バース。AFC初めてのVARということで、2018FIFAワールドカップでもVARを務めたイタリアのヴァレリ審判他も、AVARとして援助している。

VARの映像からは、ヘディングしたボールが吉田の右腕に当たっているのが見て取れる。

ボールが腕に当たっているだけとも判断されるが、まあハンドとされても致し方なしか。
吉田も手に当たったのを感じていたのか、素直に諦めている。

3月2日(土)に開催予定の国際サッカー評議会年次総会で、ハンドの反則について新たな解釈が競技規則に示されることになっているが、現在の解釈や適用に幅があり過ぎる。

吉田の得点取り消しのVARに続いたのは、53分(後半8分)の堂安律のトリッピングに関しての判定だ。
TVで試合を見ていて、「トリッピング、PK」と思ったが、笛は吹かれずプレーが続けられた。

PKではないのか? 自分の目も疑っていたところだったが、ようやく1分後、モハメッド主審からTVのシグナルが示され、果たしてPKが日本に与えられた。

繰り返し流される映像からは、堂安の左足がベトナムDFのブイ・ティエン・ドゥンに踏まれ、その後も多少の接触。明らかなトリッピングが見て取れる。

モハメッド主審は日本にPKを与え、ドゥンにイエローカードを示した。
ファウルがなければ、堂安はGKと1対1の決定的な得点の機会を得たはずだ。

これまでは、それをファウルで止めたらレッドカードだったが、PKが与えられればイエローカードに軽減される。これまでイエローカードだった判定の場合は、PKのみとなる。

“ただし”である。ボールをプレーしようと試みている限り、原則、レッドがイエローに変わるのだが、ハンドやホールディングはPKが与えられても退場が命じられる。

事実、昨年のワールドカップ、日本―コロンビア戦前半3分、サンチェスは、ペナルティーエリア内で香川真司のシュートをハンドで止め、正しく退場が命じられた。

<サッカー競技規則>
第12条 ― ファウルと不正行為
●競技者が、意図的にボールを手や腕で扱う反則により、相手チームの得点、または、決定的な得点の機会を阻止した場合、反則が起きた場所にかかわらず、その競技者は退場を命じられる。

 

●競技者が相手競技者に対して反則を犯し、相手競技者の決定的な得点の機会を阻止し、主審がペナルティーキックを与えた場合、その反則がボールをプレーしようと試みて犯された反則だった場合、反則を犯した競技者は警告される。

 

それ以外のあらゆる状況(押さえる、引っぱる、押す、または、ボールをプレーする可能性がないなど)においては、反則を犯した競技者は退場させられなければならない。

これは、VARシステムの課題なのだろう。

堂安の転倒からVAR介入まで、1分の間プレーが続けられている。
その間にカウンターでベトナムが得点したらどのするのだろう? また、最終的にPKの判定が下されるまで、さらに3分間の中断となった。長い。

吉田の得点取り消しは、ベトナムの選手も文句を言わないほど分かりにくいハンドの判定だった。しかし、堂安のトリッピングは? モハメッド主審は、やや遠いが良い角度でそのプレーを監視できている。

きっと、自信を持ってノーファウルと判断したのだろう。しかし、答えはPKが正しかった。

先ずは、ピッチ上で正しい判断ができること。
難しければ、主審として、堂安が転倒した事象をファウルかもしれないと気付きを持ち、VARに問いかける。そのようなレフェリングとすることが出来なかったのだろうか?

VAR導入により正しい判定が下され、試合の質が上がることは事実。
今年、Jリーグでもルヴァンカップ プライムステージ 全13試合(準々決勝、準決勝、決勝)、J1参入プレーオフ1試合(決定戦)にVARが導入される。

しかし、そもそもVARの使用が極力ない、いつでも正しく判断できるレフェリング技術の向上、また、長い中断もなく円滑に試合が進行されるようなシステムへと進化することが求められる。

FIFAや国際サッカー評議会が今後どのように改良していくのかが楽しみだ。

さて、準決勝。日本は1月28日(月)にイランと戦う。
FIFAランキング、日本の50位に対してイランは29位。この大会、初めて格上との対戦となる。

イランは準々決勝で中国を3-0で下し、これまで5試合12得点無失点の快進撃を続ける。
2017/18のオランダ・リーグで得点王になり、その後プレミアリーグのブライトン&ホーヴ・アルビオンで活躍するアリレザ・ジャハンバフシュを擁する攻撃陣。プラス鉄壁の守備陣。

森保サムライ・ブルーをしっかりと応援したい。

松崎康弘●文

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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