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FIFAワールドカップ決勝!フランス・クロアチア戦に見たオフサイドとVAR

 2018/07/29 サッカー
 

日本サッカー協会の1級審判員、そして国際審判員としても活躍して来た松崎康弘氏によるサッカーレポート 『ゴール!』  

今回は2018年のワールドカップ決勝戦、フランス対クロアチアでのオフサイドとVARについて考察する。

FIFAワールドカップ決勝

ロシアのWCが終わり、日本代表の監督も森保さんに決定したが、WCでの日本代表の戦い、決勝のフランス・クロアチア戦の話はまだまだ尽きない。素晴らしいWCだったからと思う。

決勝戦の後半7分、男女4人が警察官風のいでたちでピッチに乱入にびっくりした。

主審は、アルゼンチンのピタナ、43歳。

開幕戦を含め、このWCで5試合目の担当だから凄い。

開幕と決勝の2試合を担当したのは、WC史上2人目。そのピタナ主審であっても想定外の出来事。慌てた様子で、笛を吹いていた。

反体制のパンクロックバンドの「プッシー・ライオット」が犯行声明を出したとのことだが、そもそもサッカー会場は政治的メッセージのアッピールの場ではない。

モドリッチからのクロスパスを受けたラキティッチが、“さあ攻撃”とボールを進めようとしたところ。クロアチアにとってたまったものではない。

ラキティッチは、大きく不満の意を示していた。1分間の中断ではあるが、攻撃のリズムは変わってしまう。

終わってみると、ボール・ポゼッション39%、成功したパス数が202で、クロアチアの456の半分以下のフランスが4-2での勝利。

戦術もあるが、フランスが数字的にも如何に効果的な守備、攻撃をしたかがはっきりと見えてくる。

また、レフェリングに関する2つの判定にも注目したいところ。

フランスが前半に得点した2点に関連して、だ。

オフサイド

まずひとつ目は、18分のマンジュキッチ(クロアチア)のオウンゴール。グリーズマン(フランス)が右側、ペナルティーエリアから15mの付近で倒される。

そもそもファウルかの議論もあるというが、まあファウルなんだろう。

ビデオアシスタントレフェリー(VAR)検証対象外のファウルでもある。

フリーキックが与えられ、グリーズマンが右からのクロスボールを入れる。

フランス、クロアチア両チームの選手たちがボールにジャンプ。

フランスは先制点が欲しく、クロアチアは必ずクリアしていかなければならないシチュエーションである。

ところが、ジャンプしクリアしようとしたもののやや届かず、マンジュキッチ(クロアチア)が頭でクリアしたはずのボールは、自分たちのゴールに無情にも吸い込まれてしまった。

テレビでの観戦でもあり、フリーキックがゴール前に放り込まれる瞬間の状況は、はっきりと見えていた。

オフサイド! 

フランスの6番がいる。ポグバ(フランス6番)は、横にいたビダ(クロアチア)より体半分ゴールライン寄りにいる。

クロスボールが放り込まれ、ポグバはマンジュキッチのすぐ後ろに位置し、かつ多少の接触があった。

しかし、判定はノットオフサイド。VARでの検証もなかった。

オフサイドのルール

サッカー競技規則第11条―オフサイド

ボールが味方競技者によってプレーされたか触れられた瞬間にオフサイドポジションにいる競技者は、次のいずれかによってそのときのプレーにかかわっている場合にのみ罰せられる。

●次のいずれかによって相手競技者を妨害した場合オフサイドとなる。

①明らかに相手競技者の視線を遮ることによって、相手競技者がボールをプレーする、または、プレーする可能性を妨げる。

②ボールへ向かう相手競技者に挑む。

③自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる。


ポグバは、体半分オフサイドポジションにいた。しかし、

①マンジュキッチの後方にいたから視線を遮ってはいない。

②マンジュキッチに挑んではいない。

③自分の近くに来たボールをプレーしようと試みたが、多少の接触があったとしても、マンジュキッチのプレーを妨害したわけではない。あくまでもオウンゴールはマンジュキッチのミスによるものに過ぎない。

試合終了後、何度も何度もビデオ映像を観た。すると、ポグバの上半身よりビダの左足が前にでているのかとも思えてきた。

オフサイドポジションとは
 
●競技者は、次の場合、オフサイドポジションにいることになる

①頭、胴体、または足の一部でも、相手競技者のハーフ内にある(ハーフウェーライン を除く)

②競技者の頭、胴体、または足の一部でも、ボールおよび後方から2人目の相手競技者より相手競技者のゴールラインに近い場合、ゴールキーパーを含むすべての競技者の手および腕は含まれない。



 
ボールが味方選手に触れられた瞬間、守備側選手の手や腕以外身体のどこであっても攻撃側選手の前方(ゴールライン近く)にあれば、オフサイドは消える。

仮に足先だけであってもだ(VARは、ボールが触れられた瞬間とオフの選手を見ている。ボールが蹴られて前方に移動した瞬間ではない!!)。

現場では、オフサイドの選手が相手を妨害していないのだと判断しているのだと思うが、いずれにしろ、レフェリーもアシスタントレフェリーも、またVARもオフサイドに関する最新の解釈を用いてノットオフ、そして得点を認めている(VARからの連絡もなく、レフェリーはモニターを見に行くこともしていない)。

クロアチアの選手にもアピールする者はいない。

これまでだと、オフサイドポジションにいた選手がこれほど相手の選手の近くにいたら、何の疑いもなく副審の旗は上がっていた。

如何にしてオフサイドポジションにいる選手とその近くにいる守備側選手の位置関係、プレーの意図、影響の有無を細かに見極めて判定を下すか。

副審のみならず、主審の精緻な判断が求められる。

選手もそうだ。守備側の安易なオフサイドトラップもさることながら、近くに相手の攻撃側選手がいても、自己判断し、手を抜くことなく懸命にプレーすることが求められる。

ハンドからのVAR

そして、もうひとつは、38分のPKにつながるハンド。

これは、相当議論の余地がある。グリーズマン(フランス)がコーナーキックで蹴ったボールをマテュイティ(フランス)がヘディングした。

ボールはすぐ後ろにいたペリシッチ(クロアチア)の左手に“当たった”のだ。

同じ“当たった”としても、ヘディングされたボールをブロックするべく伸ばしていた手にボールが当たったのであれば、ハンドの反則となる。

手を伸ばす行為が意識的であろうと無意識であろうと、そこには故意がある(未必の故意)。

しかしながら、ペリシッチの左手は身体のバランスを取る位置にあったに過ぎないし、プレーの意図はヘディングを競りにいくことであった。

ヘディングされたボールがペリシッチの手をヒットしたに過ぎない。そのように見えた。

当然ながら、ボールと手の接触を見たフランスの選手は、ハンドをアピール。Possible(可能性のある)PK。VARの登場だ。

 
FIFAのインファンティー会長は、VARを大成功だと評価した。

VARは選手にも、監督、サッカーファン、そして、メディアにも受け入れられたと言う。「VARは、決してサッカーを変えない。瑕疵を取り払ってサッカーをきれいにしていくもの」だと。

このWC、64試合がプレ―された。

そのうち455のシーン(7.1/試合)がVARによってチェックされ、20回がレフェリーによって現場でリビュー(検証)され、その前の判定が修正されたのは17回あった。

PKとなったケース、PK取り消しというケースも発生した。

そういえば、日本・ポーランド戦の裏で行われていたセネガル・コロンビア戦ではPKがノットPKとなり、セネガルの得点が取り消された。

結果、99%の正確な判定が下されたと、FIFAは報告している。

ピタナ主審、あるいはマイダナ副審の目に、ボールがペリシッチの手に当たったのが見えていたのかどうか分からない。

見えていたが、VARからハンドの反則の可能性があると伝えられたのだろうか。

ちなみに、VARはこのスタジアムの一室、あるいはその付近にはいない。

モスクワのIBCと呼ばれるVARの集中コントロールセンターにいる。決勝は1試合だが、複数の試合であっても各スタジアムと電子通信で映像、音声が同時に結ばれているのだ。

ピタナ主審はフランスの選手の抗議を制するとともに、指を耳にあてVARと連絡を取っていることを示していた。

次いで、TVシグナル。ハーフウェーラインから少し出たところに設置されているTVモニターへと小走りに向かった。

判断に随分時間をかけていた。そして、決定。しかし、逡巡。

最終の判定を下す前に、一度離れたTVモニタ―に戻り再確認した。

TVシグナルを示しPKマークを指した。クロアチアの選手の諦めた顔。

BBC放送で、元イングランド代表のアラン・シアラーが、「これはハンドではない」とコメントしたと聞いた。さもあらん。

イングランドのレフェリーの友人とのメール交換をした。お互い、「ハンドじゃないよね!」と。

逆に、南米の主審の傾向は、ハンド。南米の友人たちはそういう。

世の中ではVARがビデオでプレーをチェックし、主審の判定を変える。

VARは多くのモニターでさまざまな角度からプレーを精緻に監視できる。

VARの判断は最終的。そのように思われているように感じる。

しかし、このケースに象徴されるように、VARがチェックし、主審に“レビュー(検証)”と伝えられることがあっても、最終的には主審の判断で判定が下される。「最終の判定は、主審」であることは担保された。

機械ではなく、そこには“人”がいる。

世界のサッカーの判定の一貫性確保の問題はさておいて、このハンド、南米の解釈、あるいはコモンセンスではハンドで、VARという過程を経て正しい判定が持たされたのだ(もし主審がイングランド人であれば、きっとノットPKに違いない)。

この試合でのVAR介入は、ボールはコーナーキックで止まり、結果PKとなったところだった。しかし本大会、VARで中断して攻撃のリズムが変わることが何回あったのだろうか? 

その後リズムを取り戻したと感じたのかどうか分からないが、余儀ない侵入者による中断でも影響はある。

FIFAはこんな課題に対してもポジティブに回答するのだろうが、まだまだ懸念されるところではないだろうか。

松崎康弘●文

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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