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【リアル・キャプテン翼?!】ツインシュートからサッカーのルールを考える

 2016/08/18 サッカー
 

日本サッカー協会の1級審判員、そして国際審判員としても活躍して来た松崎康弘氏によるサッカーレポート 『ゴール!』 今回はイングランド・プレミアリーグで話題をさらった『ツインシュート』を紹介しつつ、サッカーの華・シュートでスーパープレーが生まれる事があるのか?ルールの見地から検証する。

2016/2017プレミアリーグ開幕

スポーツ界は、オリンピックの話題が目白押し。オリンピック・サッカー日本代表は、1勝1分1敗で1st ラウンド敗退。あのシュートが、あのシュートが入っていれば・・・と悔やまれる。

そんな中、2016/2017シーズンのイングランドプレミアリーグが、8月13日に開幕。サッカー日本代表の岡崎慎司が所属するレスター・シティ(レスター)は、昨年、クラブ創設132年目の奇跡を起こし、プレミアリーグ初優勝。開幕第1戦をプレミアリーグの下位である“チャンピオンシップ”(イングランドリーグの2部にあたる)のプレーオフを制し、プレミア昇格を果たしたハル・シティ(ハル)と対戦した。
ハルは、オレンジと黒の縦縞のユニフォームをまとうがゆえに、“タイガース”と呼ばれる。プレミアとチャンピオンシップを昇降格しているのは、かつてのレスターと似ている。

エルナンデスとディオマンデのツインシュート

開幕戦の話題をさらったのは岡崎でも、昨シーズンのレスター得点王で移籍か残留かの話題となったヴァーディでもない。前半アディショナルタイムにオーバーヘッドの“ツインシュート”を放った、ハルのエルナンデスとディオマンデだ。
右側からのコーナーキックはGKにクリアされて左側からのコーナーキックに変わり、左コーナーからのボールはヘディングされ、GKが弾き、ハイボールになったところを2人が揃ってオーバーヘッドキック。映像からは、どちらの力が大きく作用したかもよくわからず。ボールは、レスターのゴールに入る。

『キャプテン翼』は、サッカーの大人気漫画。“翼君”にあこがれてサッカーを始めた人も多くいる。ツインシュートは、キャプテン翼から生まれた。翼君と“岬太郎”が同時にボールを蹴り、不規則な回転をつけてGKの捕球を難しくするテクニック。それがオーバーヘッドという形で行われたのだから、もの凄い。

キャプテン翼には、ツインシュートだけでなく、スカイラブハリケーンだったり、ゴールに乗ってのディフェンスだったり、必殺技がたくさん出てくる。こんなことが実際のサッカーの試合でできたら、ミラクルいっぱい、面白さいっぱいになるに違いない。

実際のサッカーのルールではどうか

だが、残念なことに、そうはいかないのが現実だ。
例えばスカイラブハリケーン。1人の選手が仰向けになって、両足をもう1人の選手の発射台にして、空中高く飛び上がらせ、クロスボールに合わせようというもの。実際、そんな咄嗟にはできないし、フィジカル的にも難しい。
では、ラグビーのラインアウト時のリフトのように味方選手を持ち上げて、ヘディングシュート。あるいは、相手のシュートをクリアようにするのはどうだろう?
残念なことに、サッカーではこれは認められない。サッカーは、パスを交わすこと、言葉による指示等以外、人の力を借りず自らプレーすることが原則だ。人の力を借りることは認められず、行ったら反スポーツ的行為として罰せられる(警告)。
人のみならず、用具もだ。使うことが認められている用具は競技規則第4条に書いてあるユニフォーム、すね当て、サッカーシューズ。それに加え、選手の安全を確保するためのバンテージだったり、ヘッドギアだったり。ミサンガや結婚指輪などは論外で、レフェリーであっても着用することができない。
スカイラブハリケーンも認められないし、それに対抗するためのゴールに上ってのディフェンスも認められないのは、少し寂しい気もするが。

他人の力やゴールなどを使わないのは競技規則の精神で、誰も知っていることだと思っていた。ゴールにぶら下がってのディフェンスなんて、サッカーで考えてもいなかった。

ところが、2012年のAFCフットサル選手権オーストラリア・ベトナム戦。フットサルのゴールが高さ2mということもあって、オーストラリアの選手がクロスバーを使って懸垂のようにし、相手のシュートをヘディングでクリアしようとした。

見ていた人たち、皆が唖然。ボールはクロスバーに当たり跳ね返ったためか、レフェリーは対応しなかったが、本来なら警告されなければならなかった。こんなことも起きるのかとも思った。

ボールを2人の選手がシュートしたり、タックルしたりすることはよくある。“ボールは友達”――キャプテン翼では、これからも我々の想像を超える奇想天外なスーパーテクニックが見せてくれたらと思う。
一方、実際の試合では、スーパーではあるものの“合法的な”ミラクルプレーを多く見せてもらいたい。そして、もっとサッカーを楽しみたいものだ。

 ちなみに、ハルのツインシュートによる得点。エルナンデスが自分のゴールだと喜び、チームメイトも祝福している。しかし、記録上はディオマンデのゴール(マッチレポートには、エルナンデスの名前が線で消されている)。
ツインシュートがこの2人の武器になり、バシバシとやって欲しい。次のシュートのときは、エルナンデスのゴールとして記録される――そうなって欲しいなと願っている。

【了】
松崎康弘●文
getty●写真

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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