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負けた試合で審判とサポーターが鉢合わせ!その時・日本のサッカーの文化が分かる。

 2016/06/23 サッカー
 

日本サッカー協会の1級審判員、そして国際審判員としても活躍して来た松崎康弘氏によるサッカーレポート 『ゴール!』  
第2回目は日本とヨーロッパとのサッカー文化の違いについて触れてみる。

審判が試合が終わってスタジアムを去る時

先日(6月4日)、審判アセッサーとして、J2のセレッソ大阪(C大阪)と讃岐の試合を見に行った。
好天にも恵まれ、ヤンマースタジアム長居には18,000人のお客さまが訪れていた。

前半10分、今年FCバーゼルからC大阪に復帰した柿谷選手が巧みに相手をかわしシュート、先制点を奪う。
その後もC大阪のペースと思いきや、後半は打って変わって讃岐の反撃。77分、80分に得点し、逆転に成功する。
しかし、C大阪は頑張った。後半アディショナルタイム2分に丸橋選手が同点弾を放つ。
セレッソ側のサポーターが後方に陣取るゴールでもあり、大きく盛り上がった。
この試合、主審の窪田さんが示したアディショナルタイムは4分。
このまま終わりを迎えるのかと思った。ところが、C大阪の攻撃をしのいだ讃岐があれよあれよとボールをつなぎ、3分59秒で得点、逆転!
C大阪にとって、なんという敗戦なのか。
案の定、スタジアムを回って選手が挨拶するとゴール裏のサポーターからは大きなブーイング。
その間、逆側に陣取った讃岐のサポーター席はお祭り騒ぎ。
他方、どちらのサポーターでもないサッカーの一観客にしてみたら、選手の技術や頑張り、劇的な展開と、どれも面白い試合であったと思う。
また、窪田主審のレフェリングも安定していて、選手の良さを引き出していた。

もっとも、どんなにレフェリングが良かったとしても、こんな負け方をするとサポーターの標的は選手だけではなく、審判団にも向けられることになる。
試合会場を出るのも一大事だ。リスク管理もしながら、慎重になる必要がある。例えば、混乱へのリスクヘッジを考えると、サポーターの方々も乗る地下鉄の利用はご法度だ。

 試合の反省会も終えて、審判団と一緒に恐る恐るスタジアムを出る。もちろん、ガードマンに守られて。
あ~嫌なことに、セレッソのユニフォームを着ている人たちがスタジアム出口にいるではないか。

案の定、窪田主審がドアを開けて外に出ると、「窪田さ~ん」と声がかかる。
しかし、しかしである。何か違う。声のトーンが違う。何か優しい。
そして、声掛けの後の言葉は、「窪田さん、サインをください」とのお願いだ。

まずは、青のユニフォームの讃岐のファン、その後はピンクのユニフォームのセレッソのファン。
子供と一緒に写真を撮ってくださいとも。なんと微笑ましいシーンであることか。

ヨーロッパと日本では違うサッカー文化

20年もの前のことで恐縮だが、スコットランドから招聘され5年間Jリーグで笛を吹いたレスリー・モットラムさん(レス)の日本サッカー文化体験の話をしよう。

レスの試合に奥さん(ジョイ)が同行。試合はホームチームが負けたものの問題なく終了した。

だが、シャワーを浴び着替えてスタジアムを出たときに、待ち構えていたのがサポーターだ。
この様相がスコットランド、ヨーロッパであれば、次に起こることは容易に想定できる。

どんなに良いレフェリングであっても、審判団への罵声はもちろん、どついたりもするから大変だ。
果たして、サポーターの1人がレスに近づく。両手をカバンでふさがれていたレスは一瞬たじろぎ、あわやといったところ。気丈なジョイ。これはまずいと、そこに割って入る。

しかし、C大阪戦と同様、〝暖簾に腕押し〟だった。外国人レフェリーということもありサポーターは頭を下げ、握手を求めてきたのだ。
ジョイはこの後、何試合もレスに同行するが「試合終了後に見る光景は、いつもほぼ同じだった。ヨーロッパとは違う」と話す。

もちろん、日本でも試合終了後、抗議のために審判団の乗ったタクシーを止める・囲むなどの事態が発生したこともあった。
だからこそ、何かが起きた試合後は安全に安全を考えて、さまざまに手段も工夫して審判団は帰ることが望ましい。

しかし、自分の経験からも電車内で「今日のレフェリーですよね。お疲れ様でした」と、声掛けされることも多々ある。

よく、「日本におけるサッカー文化は未熟。ヨーロッパのように、誰もがサッカーを知っていうわけではない。
例えば、得点シーンのみならずディフェンダーのプレーであってもその良さを理解し賛美するまでに至らない」などなどと、言われる。
しかし、試合に勝ち負けはある。勝てば喜び、さらに次の勝利を目指す。負けは負け。敗戦を受け入れ、次に向かう。

サポーターもブーイングで選手を叱咤激励するが、それは心からチームを愛するが故だ。
審判団は、その試合で白黒つけなければならないさまざまな事象に判定を下していくことを委ねられた人たちだ。
それを理解し、仮に不満に思っても瞬時に判断し、判定することの大変さを評価することも大切である。

試合後、選手を見送る光景と同じく、審判にも手を振って見送ってくれる日本のサッカー文化。
とても醸成しているなと、感じている。

【了】 

松崎康弘●文

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ライター紹介 ライター一覧

松崎康弘

松崎康弘

JFA参与・元(公財)日本サッカー協会常務理事。元審判委員長
1954年1月20日生まれ、千葉県千葉市出身。

82年28歳でサッカー4級審判員登録。90年から92年、英国勤務。現地で審判活動に従事し、92年にイングランドの1級審判員の資格を取得。
帰国後の93年1月に日本サッカー協会の1級審判員登録。95年から02年までJリーグ1部の主審として活動し、95年から99年までは国際副審も務めた。
著書に「審判目線・面白くてクセになるサッカー観戦術」「サッカーを100倍楽しむための審判入門」「ポジティブ・レフェリング」などがある。

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